非公式な予感
大事な部分が割れる。
「ヤエヤママイカ、もう一度お前の役割を説明する手間を捧げようか」
ルドルフがねっちりと言う。
「お手数おかけします」
俺もあえてしっとりと言い返しておく。
「今回の防衛作戦においての貴様の役割は、特になしだ」
「ない?なんにも?」
「むしろ作戦への直接的な介入は、求められていないと考ておけ」
「ええ、でもこれからその、何かと戦うんでしょ?」
そのなんかの名前をど忘れしていた。
「確かに無イとの戦闘行為の決め手に、貴様の存在は欠かせない。だからこそ必要な時までは大人しく縮こまっていろ。というのが上からのお達しだ」
「そんなの」
そんなの、いてもいなくても一緒じゃないか?
「あと単純にフェアリービーストは貴様の魔力がないと動かない」
「でも俺が乗る前にも、普通に動いていましたよね」
「あれは、バルエイスの保有する予備エネルギー源を使用していたんだ。本来なら保護区全体の危機的状況にしか使用しないし、第一」
ルドルフが苦虫をかみつぶしたような顔つきになる。
「実の所、今そのエネルギーを使っているのは限りなく非公的な事実なんだ」
「と言いますと」
「下手したら後々面倒なことになる」
「おお…」
「主に金銭的なやり取りで」
「おおう…」
なんてこった、どこの世界でもしょっぱい話題には事欠かないらしい。
「そういうことだ。たとえ、たとえ貴様が魔力的に平均以下な転生者であっても、それでもこの兵器を一機動かすのに欠かせない要素なのだ。理解してもらいたい」
若者は「たとえ」を微妙に協調して意見をまとめた。
ここ目で丁寧に説明させてもらっておいて何だが、俺はいまだに納得できていなかった。いったいどうしてここまで、悲劇的に理解力が不足しているのか。
「大体魔力ってなんだよ」
そんなものは俺の世界には微塵も存在していなかった。進化を突き詰めた科学のことを魔力と考えるなら、まだ理解ができそうなのだが。
それか眼前に広がる臨場感たっぷりの映像技術のことを魔法と呼ぶなら、それはそれで納得できてしまいそうだ。
考えれば考えるほど脳神経が混迷を極めていく、生来の馬鹿が異世界に来てまで俺を苦しめようとしていた。
ぐるぐるとまわる思考に、俺は自然と呻き声をこぼしていたらしい。
「あのお、つまりだね」
またしても風景のどこかから声がした、これはムクラの声だ。
「いろいろ難しく考えないでさ、自分は巨大な電池になった気分でいたらいいんじゃないかな?」
「電池」
一気に比喩が日常に近くなったので、一旦思考を中断してムクラの言葉を反響する。
「ほら、秘密兵器専用の特別な電池って、なんかかっこよくない?」
「そう、かあ?」
「そうだよ!」
自信満々に言われると、自分の主張に自信が持てなくなる。
「電池かあ」
なんだか不思議に間抜けである。
「納得は済ませたかい、ヤエヤマ君」
ウサミが黙り込む俺に話しかけた。
「そんなにこだわる必要があるのかね?」
その言葉にはどこか、ざらりとした感触があった。
「難しいことばかり考えていると、当たり前のことすらできなくなるよ」
「そんな事」
関係ないだろ。とまで言うつもりがあったわけではない。どっちにしろ俺の言葉は中断される。
「君が色々うだうだと御託を並べいたら、時間切れだよ」
ウサミは諦めたように脱力する。
「もうすぐこの世界がやってくる」
その詩的な表現は彼に全く似合っていなかった。不自然さが俺にとある感情を予感させ、とある一転に視線を誘導する。
眼球は映像を介して都市のある一部、灰色の天井を映す。そこには蝶の羽音のような静けさが漂う。
そして耳を聾する轟音が鳴り響いた。
フェアリービースト(妖獣)は、とっても燃費の悪いものです。予備電源は別の地下区域に保存されていると考えておいてください。