オーバーラップを決めろ
言葉が重なり合う。
「ほうほう」
低く滑らかな男性の声が俺に感心した。
「今回の転生者様は若いだけあって流石、呑み込みがお早いようで」
風景のどこかから、ウサミの冷やかしが聞こえてくる。そういえばこの部屋にスピーカーはあるのだろうか?
「軽薄な賞賛、ありがとうございます。敬白して受け取っておきますよ」
とりあえず皮肉を返しておく。ウサミのあの、癪なにやにや顔が脳裏に浮かんだ。どうして俺はこうも彼が苦手なのか。実質出会ってから半日と経過していないにもかかわらず、ついうっかりすると嫌悪を喉から吐き出してしまいそうになる。
「それで、俺は何をすれば良いんだっけ?」
ただの気分転換のつもりで投げやりに、俺はソルトに再三質問する。
「は、はへ?」
これ以上話すことはないと踏んでいたのか、ソルトはすっかり気の抜けた返事をした。もしも実態があったら、日向の猫みたいに呆けた表情をしていただろう。
「あれ?あの、えっと」
予想外の反応に俺も戸惑う。
「だから、俺はここで何をすればよろしいんでしょうか?」
怖気づきながらも、今度はより明確に質問してみる。服を着ていないせいか、奇妙な寂しさが肌を覆う。
はああ。と風景のどこかからため息が聞こえてきた。怒りが込められているそれは、ルドルフのものだとすぐに察した。
「ヤエヤママイカよ、貴様は人の話を謹聴する能力が、著しく欠乏しているようだな」
ヤバい、何かめっちゃ怒ってるよ。
「すんません、緊張していたもので」
とりあえず軽い駄洒落を言っておく。実際に緊迫している割には微妙に気の抜ける場の空気に、心臓が凝り固まっていたので嘘は言っていない。
「黙れ愚か者が」
しかしルドルフに俺の粋でスタイリッシュな冗談は通用しない。
「くそ、何だってこんなぼけっとした野郎が、よりにもよってバルエイスの転生者に選ばれたんだ」
やっべぇー…、これは本気の怒りだ。その必要もないのに、俺は頭を守ろうと構えてしまう。
「嗚呼素晴らしいなあ!!」
唐突に大声を上げたのはウサミだった。
「やる気のある若者がこんなにもバルエイスにたくさん存在しているなんて、まさしく奇跡的だと思いませんか隊長さん」
脈絡もへったくれもない楽観思考に、さすがのルドルフも戸惑い、
「は、はあ」
と語気を弱めはじめる。他人がいきなりテンションを上げると、案外冷静になってしまうものらしい。
「いやーいやいや、バルエイスの未来は明るいよ。オジサン涙出ちゃいそう」
ウサミは言葉に湿気を滲ませる。口ではそう言っておきながら、むしろ晴れやかな表情をしていると、俺はかってに確信していた。
無論口に出しては言わないが。
頭痛と腹痛が痛い。