さぶぶさぶぶ
少年の皮膚があることを実感する。
とはいうものの、実物を見たことのない鳥類に心を寄せたってなにも変化しない。いつまでも見っとも無く目を回し続けるわけにはいかないのだ。
俺は持てる限りの順応力を絞り出し、現状を受け入れることを試みた。瞼を固く閉じ、背中を丸めて深呼吸を繰り返す。そしてそのままゆっくりと目を開けた。そこには依然床はなく、浮遊感たっぷりのアスファルト色の地面が存在している。だがもう取り乱すことはない、ここまで来ると驚きも薄れてくるものかもしれない。
「視界は良好ですか?」
ソルトが音声のみで質問してきた。その声はあくまで機械然としているが、どこか俺を気遣いたい感情も感じ取れる。
見えすぎちゃって困るわぁ。なんて気の利いた答えは出来ず、
「とても良好です…」
などといたって凡庸な受け答えをするしかなかった。
「何か不具合はありませんか?」
「不具合と言われても…」
むしろ冷静になればなるほど、平常時では得られることのない冴え渡りが、神経に浸透してきている気がする。
「気分は悪くないですか?」
「悪いどころか」
悪いどころか。俺はそこでようやく肉体の中心に現れた、かつてない鋭敏さを察知し始めていた。圧倒的に不慣れなその感覚は、俺の皮膚に不気味な快感を這わせた。気分が良好すぎて吐き気がする、そんな矛盾に戸惑った俺は、誤魔化し程度に自らの体を掻き抱いた。
それがきっかけで一つ、とある事実が発覚した。どうして今まで気付かなかったのか。
「なあソルトよ」
「どうしましたか?マイカさん」
「どうして俺は真っ裸なんでしょうか」
俺は服を着ていなかった。上着なしで下着のみ、パンツ一丁などというまだ救いのある状態ではない。本当に正真正銘に確実性たっぷりに一糸纏わぬ姿、全裸なのであった。認識した途端、本来なら衣服に覆われるべき部分がすーすーと、毛穴をすぼめ寒気を訴えてきた。
「あー、えっと、そうでしたね」
今頃そんなところを追及されると思っていなかったのか、ソルトは微妙に調子を崩す。
「申し訳ありませんマイカさん」
そしてなぜか謝罪してきた。
「ええ、なんで謝るの」
今度は俺が調子を狂わす。そんな相手に構わず、ソルトは事情を説明し始める。
「妖獣とのシンクロテストを効率的に施行するにあたって、衣服は微小なれど障害になることが懸念されます。ですので…」
「ごめん、もっとわかりやすく言って」
「兵器と同調するために、なるべく邪魔なのを取り除きたかったのです」
「なーるほど」
要するに服を脱いだ方がやりやすかったってことか。
「健康診断みたいだな」
「まあそんな感じですね」
そういう感じにしておこう、でなければ納得などできそうにない。
あるいはさぶいぼとも言ったりします。