瞳を開けて
少年は一体何を見ることになるのか。
誰かが小さな悲鳴を上げた、高くか細いそれは男性のものだと分かる。俺の声のような気がする、だがムクラのものかもしれない。少なくともウサミとルドルフのものではないと、それだけは確信が持てた。
まあ、何でもいいや。
「敵生命体反応確認」
これは誰の声だ。この機械的で温かみの欠片もない、事務的な台詞をいきなり吐き出し始めたのは誰なのか。
「視界情報を転生者に表示することを推奨します」
それはソルトであった。彼女は今、誰の傍らにも肉体を現存することなく、音声のみを液体に響かせている。
「隊長、ご指示を」
いきなりそんな真面目な声を出して、一体どうしたんだよ。なんて問いかけをしたい欲求が喉元まで競り上がるが、呼吸を止めて堪える。
指示を求められた隊長、つまりルドルフは尻尾を一回平行に揺らすと、
「転生者に視界情報を与えることを、許可する」
彼も努めて無機質に、ソルトへ命令を下した。
「了解しました、転生者安置室へ視界情報を展開します」
そこで俺はようやく、これらのやり取りが俺自身に関するものだと察する。
「何を…」
何をしようとしているのか。肉体を介し、空気を振動させて会話させて対話することができない俺は、音だけで連絡を取り合う二人に割って入ることを試みた。
だがその試みは果たされず、不可解な刺激によって中断される。
それまで穏やかな暗闇に保護されていた眼球に、突然光が叩き付けられる。
「眩しっ…?」
突然の環境の変化に、反射反応として瞼が閉じられる。薄い肉幕と血液を抜けて見えるのは光、およそ俺が今いる室内ではありえないほどの量の光だった。
「え…、何だ?」
状況が理解できず、俺はただただ狼狽えるばかり。今の状況はまるで、寝起きにカーテンを全開されたのによく似ている。そんなアットホームな経験が俺にあるわけではないのだが、この体の痙攣を形容するにはその例えが一番ふさわしいと思う。
「ぐえ」
食われかけの蛙みたいな呻きが、喉からごろりと嘔吐する。 光の次に訪れたのは気持ち悪い、暴力的な無重力だった。瞼の次は唇を固く閉じる、そうしないと必要な栄養まで、無駄に吐き出してしまいそうだったからだ。
「な、何だこれ」
それを理解するには、瞼をこじ開け唇を開き周囲を確認する必要がある。脳の一部、常に潜んでいる怠惰的な部分が小さく反対意見を述べた気がするが、そんなのはさくっと無視だ。
目を開ける。
「な、何じゃこりゃあ?」
とてつもなく普遍的な感想を述べてしまったこと、それはどうか許してほしい。そうするしかないほどの衝撃が、文字通り目の前に広がっていたのだから。
夏の朝はどうも苦手です、冬の朝も苦手ですけど。