見物料21,000今
少女の特技が男たちを翻弄する!
恥ずかしさから逃れるために、話題を無理やり方向転換してみる。
「あの、それで、ソルトの体は大丈夫なのですか?」
動揺しているので、無意識にソルトの口調を真似してしまう。
彼女は一瞬、何のことを言われたのか分からなかったのか、少しだけ呆けた表情を浮かべる。そしてすぐに俺の不安を取り繕うとした。
「ご心配には及びませんよ、融解能力は私の種族にとってごく自然な機能ですから。よほどのことがない限り、肉体に直接ダメージが影響する可能性は低いとされています」
ソルトはにこりと笑い、もう一度誇らしげに胸を張る。
「それに自分で言うのもなんですが、私のようなタイプは本作戦に非常に役立つ自信があります。この機体には特殊な液体が、様々な形質を以て充満しています。マイカさんの体を包んでいる液体も、そのうちの一つですよ」
「へえ…」
俺は何となく手を動かしてみる、動作に合わせて液体も流れを作った。
「でも呼吸ができる液体なんてすごいね、どんな仕組みなんだろ?」
今更な疑問が口から出てくる。
「ああそれは、液体を介して肺が直接酸素を取り込んでいるんですよ」
ソルトが大きく口を開けて、金魚のようにぱくぱくと動かす。
「液体呼吸は慣れるのに時間がかかるんですよね。私のように同化できれば話は別ですが、それができない身体の方は、最初必ず鼻がつーんと痛くなるみたいですよ」
「なんか、プールみたいだね」
変な潜り方をしたときのあの、気管を貫く痛みが回避された点においては、ソルトの絞め技に感謝すべきなのかもしれない。
「でもその液体を利用することで、このように」
ソルトの姿がまたしても俺の前から消失する。と思ったら、今度はムクラの頭上に彼女は出現した。
当のムクラは己の作業に集中していたため、彼女の出現になかなか気付かない。背を曲げながら一心不乱にキーボードを打ち込み続ける青年の頭上で、少女が呑気に案山子立ちしている風景が俺の眼球に映し出される。ソルトとムクラは互いに全く姿勢を崩そうとしない。その姿はかなり前衛的なアート作品みたいで、俺の笑いを誘った。
だけどいくら面白くても、人の仕事の邪魔をするのはいただけない。
「ムクラ」
彼に教えてあげよう、と思ったところで言葉に詰まってしまう。今の状態をうまく説明できる自信がなかったのだ。ましてや相手はわき目もふらずに作業に没頭している男、ふざけたことなど言えば彼の鋭い爪が唸りを上げるだろう。
「頭、大丈夫?」
人に話しかけるのが嫌で、細々と言い訳を考えていたら余計変な言葉になってしまった。
しまった…、これじゃあ余計失礼じゃないか…。
「ほあ?」
俺の失言などまるで聞いていなかった風に、ムクラはいったん集中を中断した。
「僕の頭がどうしたって?」
「あ、えっとその…」
のんびりとしたムクラに事情を説明するより先に、彼本人が強張った体を解すために座ったままの姿勢で、大きく伸びをした。
そして首のストレッチを兼ね、必然的に上を見たのだった。
「ひょえ?!」
彼のビロード状に柔らかそうな、短い黒髪が驚きで逆立った。
後ついでに頬も赤くなる。これは見てはいけないものまで見たな、察したくないことを察してしまったソルトのスカートが揺らめく。
「今」はバルエイスで使用できる通貨単位です。