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馴染みの医療機関

はたして兵器に求められる代償とは。

 何につけても、とにかく落ち着こう。

「さて、何から聞きたい?」

 ほら、ルドルフが回答を与えようとしてくれている。聞きたいこと知りたいこと、その他諸々をすべて今の内にぶつけておかなければ。

「瞬間移動の仕組みを、教えてください」

 なのに口から出てくるのは、果てしなくどうでもよさそうなことだった。

 予想だにしていなかった言葉に、ルドルフはぽかんとする。そして隣にいたソルトをじろりと見やり、

「癒術士よ、貴女は自身の自己紹介もまともにしなかったようだな」

 ルドルフの指摘にソルトは、

「いやあ、えへへ」

と誤魔化すことに挑戦し、そして失敗した。咳払いを一つする。

「ええっとですね、マイカさん」

 気まずい空気から逃れるかのように、ソルトは再び俺のすぐそばに出現する。

「うひあ?」

 またしても変な悲鳴が出てしまう、やっぱり何度見ても慣れそうにない。

「ソルト、瞬間移動はいいけれど、急に現れるのはやめてくれないかな…」

 俺の懇願にソルトは優しく答えてくれる。ということはなく、

「うーむ」

と意味ありげな表情で何かを悩んでいた。

「マイカさん」

 そして改まって俺の目を真っ直ぐ見つめる。

「はい」

俺もあえて彼女の、色素の薄い瞳を見て現実に少しでも対抗しようとした。本当に、些細な抵抗なのだが。

「貴方は今フェアリービーストに乗っているわけですが」

「それはさっき聞いたよ」

 同じことを繰り返し聞かされるかと思って、心臓に嫌気が刺しかかる。

「俺はその、妖獣ってやつの電池みたいなもんなんだろ」

 自身を燃料に例えること自体、なかなかの奇妙さがある。

「そうなのですよ」

 ソルトは一人納得したようにうなずく。

「やっぱりフェアリービーストより妖獣の方がかっこいいですよね」

「へ?ああ、その…」

 そんなところは別にどうでもいい気がする。だがソルトは真剣な面持ちで、話を勝手に進めていく。

「安心しました、マイカさんはそっちの名前の方がお好きなようですね」

「いや、好きってわけじゃ」

 単に発音しやすいだけの理由である。

「マイカさん」

 ソルトは雲の切れ間みたいに覗かせた穏やかさを再び隠す。

「私は謝罪します」

そして丸い頭を深々と下げた。

「緊急時とはいえ、本人の了解なしに妖獣とのシンクロテストを行ったこと。本当にすみませんでした」

 話の展開についていけず、今度は俺がぽかんとしてしまう。

「シンクロテストって、なんのこと?」

 テストを受験した記憶などない。

 俺がしつこくぼんやり霞み続ける記憶をまさぐっていると、誰かが脱力の呼吸をしたのが聞こえた。

「嘘でしょ…?」

 それはルドルフだった。顔を手で覆っているので表情が見えなが、なんとも張りつめた表情をしている。

「な、何か問題が?」

 俺は不安になったので、恐る恐る質問してみる。

「大問題だ」

 ルドルフは筋肉の緊張を解いて、ソルトに語りかける。

「癒術士、貴女方の言う妖獣とやらのシンクロテストにかかる負荷はどれくらいだ?」

 ソルトは教師に当てられた、やる気のある学生のような声で意気揚々と答える。

「数値的に言えばレベル10が妥当だと考えられますね」

「レベル10?」

 急に数字が出てきて、俺はますます混乱してくる。

「よくわかんないな」

「あえて言葉で説明するなら」

 ルドルフが教師のように補足を入れる。

「生存し、意識を保っている人が、己の想像できる限界までの痛みだ」

「ほ」

 現実味のない比喩が、俺の気管を絞めた。

「大概の被験者は、テスト直後に手厚いケアを受けることが必須条件とされているのだが」

 ルドルフは意地の悪そうな感情を口元に浮かべる。

「転生者、貴様はどうだ?良かったら良いカウンセリングを紹介」

「結構です」

 食い気味に拒否しておく。少なくとも今の俺は、割と元気だ。

吐き気がだいぶ治まりました、治まるどころか空腹です。

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