吐き気を催す歓喜
ムクラの喜びにマイカは戸惑う。
ムクラは太い体をくねくねとさせ、喜びを噛みしめている。
「やっべー、激ヤバなんですけど。まさか自分が生きている内に、伝説の兵器を操れる経験ができるなんて。これぞまさに選ばれし宿命ってやつ?ていうか、妖獣ってホントにあったんだ」
新作のゲームを買ってもらった子供みたいだと、俺は肩透かしを食らう。
気分を動かされたのは俺だけではない。ルドルフもムクラの気楽さに気圧され、そして気分を害している。
「妖獣か、巷ではそんな呼称もあるみたいだが」
その証拠に、眉間に深い皺を刻み始めている。俺としてはフェアなんとかという名前よりも、「妖獣」の方が言い易くて有難いのだが。
ルドルフの不機嫌にもたじろぐことも無く、ムクラのテンションは上がり続ける。
「幻のロストテクノロジーが動いてる!マイカ、お前マジですごいな!」
青年が古風なギャルみたいに喜ぶのを見ていると、なんだかこっちまでテンションをアゲアゲにしないといけないような気がして、どきどきと冷や汗をかきたくなってくる。
「どうしましたか?マイカさん」
ソルトが心配そうな声を出す。
「心拍数が上がっていますよ、深呼吸をして落ち着いてください」
そして優しく俺の肩に触れる。彼女の手から伝わる温かさが、興奮している気管を癒す。一つ二つと呼吸を意識して深く繰り返す、額からにじみ出る脂汗が液体の中に溶けて消えるのを、少し霞む目でぼんやりと眺めた。
「どうした?」
ルドルフも俺のことを気遣おうとする。
「転生者のバイタルに、何か問題が生じたのか?」
やっと解けかけていた眉間の皺が、再び深く刻まれる。
「癒術士、どうなんだ。報告をしろ」
「いえいえ、そんなに心配しなくても、もう大丈夫ですよ」
ソルトはルドルフの懸念を解消するために、報告をしに行った。言葉だけでは伝えきれないと思ったのか、彼女は体ごと移動したのだ。
「え?」
さっきまで俺のすぐそばにいたソルトは、例の瞬間移動を使ってルドルフの元に、まばたきを一つする間で移動をしたのだった。
「ほあああっ?!」
いまだに人の体が瞬間移動することに慣れない俺は、見っとも無い叫びをあげてしまう。
「ひゃあ?!」ソルトが驚いて、小さな悲鳴を上げる。
「マイカさん、どうしましたか?そんな大きな声を出して」
ソルトはなぜか俺の視点に合わせて心配をしてくる。
「ソルト、一体、どうやって。瞬間移動を?」
「落ち着け、ヤエヤママイカ」
今度はルドルフが俺を嗜めようとしてくれる。
ウサミがやれやれと、愉快そうに息を吐いた。
これ書いている時、リアルで嘔吐しました。