オプチミズムでいこうよ
ムクラの心持は、はたしてどのようなものか。
ムクラはまさに、鬼気迫るほど嬉々として目を見開いた。
「そんな?!なんてっこった!マイカ、君転生者だったの?!あの伝説の?!」
細い目が限界まで開けられ、黒々と輝く瞳孔が丸見えになる。
転生者だったの?と言われても、そしてそのことにびっくり仰天されても、俺には何がそんなにすごくて驚くべきことなのか全く分からない。
なので俺は努めて冷静な、冷やし中華ほどに冷め切った反応を返すしかなかった。もっともムクラにはおそらく俺の顔を見ることは出来ないので、彼に伝わったのは何もない沈黙だけだが。
俺の冷ややかな心情など知る由もなくムクラは、
「なんてこった…。一日の内で2回以上も奇跡に遭遇するなんて。すごいなあ、半端ないなあ」
などと、しみじみ感激に耽っている。
そして不意に鋭く息を飲むと、
「ということは待てよ…!」
真剣な面持ちで、変な匂いのしそうな汗をじっとりと流し、首を曲げて俯く。
「ど、どうした?」
気分でも悪くなったのか、あるいは急激な腹痛に襲われたのか、心配したので聞いてみる。
「や、やばい…」
「どっか痛いのか?」
「超感激なんですけど…!」
「は?」
ムクラが顔を上げる、そこには理解し難い感情が溢れていた。
「俺今、あの伝説の妖獣に乗ってんだぜ!激ヤバ!」
スタンディングオベーションをしそうなほどの勢いで、ムクラは両手を座ったまま高く、ハエトリグモの威嚇行為みたいに高く振り上げた。
「今更納得したんかい」
真っ暗な小部屋、この世界のマスメディアで引っ切り無しの話題をかっさらい続けた、注目の的の機械のかの内部のどこかにある部屋で、俺は己に引けを取らないほど能天気で無自覚な野郎に鋭いツッコミを食らわせた。
「いやあ、出っ歯のおっさんに事情は説明されてたけれど、まさか本当だとは思えなくてさ」
「だったらなんだと思ってたんだよ」
とりあえず聞いてみる。
「んー、テレビのドッキリ番組とか?」
こんな異常な状況でよくもまあ、そんな薄っぺらい虚構を信じられるものだ。
へらへらと微笑む青年を小馬鹿にしたくなった。だがここで客観性が異議を唱える。
もしも、もしも仮に俺がムクラの立場だったら。異世界からの正体不明な白アスパラ宇宙人などではなく、ごく普通の根暗なこの世界の住人だったら、今のこの状況を心の底から理解などできるだろうか?
たぶん無理だ。ムクラほど楽観的にはなれなくとも、いきなり日常から未知の戦いなどに放り込まれたら、笑って嘘を信じたくなるかもしれない。
「妖獣に乗れる日が来るなんてなあ…。今度友達に自慢しよっと」
まあでもきっと、ムクラはそんな深刻なことは考えていなさそうだ。
その気楽さが、俺はどうしても羨ましかった。
ライオンズマンションに住みたい。