水っぽい電池
ルドルフから告げられる事実に、マイカは深く動揺する。
若者共の、初心初心しくも瑞々しくもない干からびた会話を、ウサミは半笑いを浮かべて清聴していた。鼻歌はもう歌うことを止めている。
「さあさあ、隊長さん」
ソルトが催促を強める。
「時間もないのでささっとお願いします」
「そんな、いきなり言われても…」
急な無茶ぶりに、ルドルフは唸る。やがて息を深く吸うと、
「…そうだな。即座に状況を説明できるのも、隊長として必要な事か」
首を微かに震わせ、渋々要求を飲み込む。
「あまり時間がないので、手短にいくぞ」
「はい、お願いします」
俺まで緊張してきた。
「ヤエヤママイカ、貴様は今、多機能式防衛兵器フェアリービーストに搭乗している」
「ああやっぱり」
何となく直感してはいたが、改めて宣言されるとなんだかこそばゆい。
それはともかく気になることがある。
「でも俺は一体何のために乗っているんだ?その、フェアなんとかに」
正式名称がちゃんと言えない。
ルドルフが再三の溜め息を吐く、きっとこのことも知っておかないといけなかったことなのだろう。
「ヤエヤママイカ、本作戦における貴様の役目は」
「役目は」
「動力源だ」
「は、どう、どうりょく?」
予想外の答えに声が上ずった。
「ど、どういう意味ですか?」
「どうもこうも、そのままの意味だ」
俺の動揺に構うことなく、ルドルフはあくまでも淡々とした声色で説明を続ける。
「貴様はフェアリービーストの非常用動力源として、今回の作戦に参加してもらうことになっている」
なかなかの意味不明さに、心が乱されるのが分かる。ついルドルフの顔が見たくなり、例のごとく視点を移動させようと試みる。しかし上手くいかなかった。動揺すると眼球が凝り固まったように動かなくなるのだ。
「この役目は貴様に、転生者にしかできない」
ルドルフは深い確信をもって言う。
しかし俺はどうしても納得ができない。動力源って要するに電池みたいなもんだろ?テレビのリモコンみたいに、それがないとほぼ確実に動かないということはないはずだ。だって、迎えに来た時にこのフェアなんとかは、俺なしでも普通に動いていた。今何となく察したのだが、あの時操縦していたのはウサミなきがする。
そうだとしたらますます俺の存在意義が不確実になる。ルドルフは動力源と言ったのにもかかわらず、兵器はそれがなくとも十分稼働できるのだ。
必要のない動力源など、果てしなく不必要なものではないか?
などという疑問を、秒針が1秒を刻むうちに脳内で駆け巡らせた俺は、その疑問を一刻も早く解決することを望む。
なので真剣な面持ちをしているルドルフに怯むことなく、自分の意見を述べようとした。
「ちょっと待ってくだ」
「ええええっ?!」
しかし俺の言葉はムクラの叫びによってかき消されたのであった。ああチクショウこのヤロウ…。
今日は鳩のお尻を眺めました。