二度目はさすがに飽きる、なんてことはない。
マイカはソルトの姿を探す。
「呼びましたか?マイカさん」
彼女の声は何も、本当に何もないところから聞こえてきた。
「うひぃ?!」
しかもかなりの大音量で。鼓膜を突き破り、鼻の穴を貫通しそうなほどの至近距離でソルトの声が発生した。
「おっと、すみません。近すぎましたね」
ちょっとだけ申し訳なさそうな声色で、音が適切に距離を取る。俺はますます困惑し、おどおどと何内暗闇を見回す。動きに合わせて液体も掻き乱れる。
「ソルト?どこにいるんだよ?」
そこで俺はようやく自身の周辺に意識を巡らす。映像ではなく肉眼で見る世界は、まさしく暗闇であった。
「真っ暗で何も見えねえ…」
感覚的に密室なのは理解できた。肌を覆う液体が意識と反応して、外付けの感覚神経のごとく室内を隈なく触れ、俺に認識を与えている。だから暗室に閉じ込められる状況に陥っても、不気味なほど落ち着いていられた。まあこれは俺の経験も関係しているかもしれないが。
俺は眼球に力を込めてみる。先ほどのように視界を移動させようと試みた。今までの映像はてっきり夢うつつの出来事だと思い込んでいたが、思い出話ができてしまうほどの現実味ができてしまうと、もはや夢と思うことの方が疲れてしまう。
だとしても、俺はどうやって密室の中からほかの場所を見ることができたのか。よもやここへ来て異世界独特の超能力に目覚めたわけでもあるまい。できることならそうであった方が良いな、などと考えつつ俺は眼球を瞼の中でぐりぐりと動かした。いろいろ考えると頭が痛くなる。
「マイカさん、どうしたんですか?干し梅みたいな顔になっていますよ?」
疑問に喘ぎつつ眼球をベイゴマのごとく回す俺の挙動を、心配するソルトの声が聞こえる。
その時不思議な感覚が顔を覆った。彼女の声と同時に瞼がぽかぽかと温かい何かに包まれる。それはまるで日光に干した布団のような心地よさがあり、無理くり動かした目の筋肉がほろほろと解れるのが分かる。そればかりではなく、なんだか体の疲れも少しだけ溶かされる、そんな不思議な感覚だった。
「そんな怖い顔しないでください、私はここにいますよ」
春先の日差しみたいな心地よさに包まれて瞼を開ける。そこには見慣れた女性の姿が唐突に、涌き出たかのように出現していた。
「この通り、元気もりもりで任務に就いていますよ!」
ソルトは大きめの胸を張った。
彼女の元気っぷりは俺にも十分伝わった。それは決して彼女の明るさがどうこうだとか、あるいはやっぱり異世界能力の目覚めによって、他人の隊長を即座に判断できるようになっただとか、そんな事ではない。
ソルトは誰の目に見えても元気であることを全身で誇張しまくっていたのだ。
わかりやすく言えば、またしても彼女は全裸でいたのだ。しかも今回は水中なので、ソルトの見事に豊満な肉体がより開放的に揺らめいていた。
まったく、この女は定期的に裸を見せないといけないのか?
なんてことは言えやしない。
干し梅は梅干しにとてつもなくよく似た保存食です。主に日光干しと人工灯干しの2種類が売られ、人工灯干しの方が安価です。