ヴヴヴっ、ヴヴヴヴヴヴ、ンンーヴヴヴヴ
マイカは意外な再開をする。
ヴヴヴヴヴゥゥゥーーーンンン…。
稲光に似た神々しさのある振動が、液体越しに俺の骨を震わせた。
一瞬だけ体を無重力が襲う。ジェットコースターに乗った時のアレ、すなわちタマヒュンが下半身をびりびりさせ、毛穴を引き絞り細やかな隆起をぶつぶつと無数に作る。
振動は納まったかと思うと、思い出したかのようにぐるると蘇る。不安定な周期を数回ほど繰り返すのは、寝起きの悪い人間を思わせた。実体験に基づく勝手な推測である。
寝起きの機械は体を億劫そうに振動させ、やがて諦めたように一定のリズムを獲得した。
「うーしっ、初期動作に問題はなし。よろしいよろしい上々上々」
ウサミが娘の成績に満足する父親みたいな笑みを浮かべ、緩む口で呟いた。何かを求めて唇を蠢かす仕草をしたが、すぐに心許なく寂しげに頬を掻いた。この動作は煙草を求めているな、とすぐに分かった。
ウサミは一人誤魔化すようにサングラスを弄ると、すぐにハンドルを握り直し前の大きなガラス面を視界に入れたまま、首を微かに動かしとある方向にいる、とある人物に向かって声を張り上げた。
「おうい臨時君、臨時情報処理員君。調子はどうだい?お腹は痛くなっていないかい?」
ウサミは遠足の引率係みたいな気軽さで、誰かに声をかけた。
どうやらウサミとルドルフの他にも、誰かがこの機会に乗っているらしい。俺は無意識にソルトの姿を期待した。そういえば彼女は俺に絞め技を決め込んだ後、どこに行ったのだろうか?姿が見えない。
呼ばれた相手が緊張に上ずった声で「は、はひいっ」と返事をした。男性の声だったので俺は勝手に落胆した。それにしても…。
「おっ、お腹は大丈夫です、痛くないです。むしろ小腹がすいてます」
なんかどっかで聞いたことのある声だな。何だっけ誰だっけ?
なぜか左の頬、刃物で傷つけられたところがずくりと疼いた。触ってみるとソルトが張ってくれたガーゼがなくなっている。異様な解放感が全身を包む、なんだかうすら寒い。
「それは良かった」
ウサミはまるで心のこもっていない思いやりを、笑いながら述べる。
「急な仕事で戸惑うこともあるかもしれないけれど、困ったことがあったらすぐ報告してね、俺は何もしずに上に報告だけするから」
「はいっ」男は張り切っている。俺は彼が何処にいるのかなかなかイメージが掴めないでいた。目玉をぐるぐる回していると、気持ち悪くなってくる。
「そういえば君、名前何だっけ?」
なかなかに失礼な質問を、ウサミは悪ぶれることなく投げかける。
「僕の名前は」
俺はようやく声のありかにたどり着こうとしていた。ぶれる視点の中で、男の肥った体が確認できてくる。
「僕の名前は、ムクラです」
その名を切っ掛けに、俺の記憶が呼びさまされた。
「あ」
ひとりでに驚き、つい声が漏れてしまう。
「お久しぶりです、ムクラ」
実際には数時間ほどしかたっていないはずだが、彼の姿は俺に故郷ような安心感を与えた。
私は「ヴ」をきちんと発音することができません。