動け!兵器よ!
彼女は駆動を開始する。
ウサミは小さく息を吐く、そしてレバーの中でも最も身体に近く重要度も高そうな、いわゆる操縦ハンドルらしきものを両手でつかむ。
ハンドルは人の手に上手くすっぽりとフィットするように設計されてある。指は隙間を許さないほど硬く密接され、小指から人差し指は拳骨のように硬く握られている。
手錠をかけられるみたいな姿勢で腕は固定され、親指はハンドル上部に埋め込まれているスライドパットに似た部品に触れる。ウサミは真剣な面持ちで親指を細やかに、スマートフォンに操作するみたいに蠢かせていた。
ウサミの口からはぶつぶつと、小音量の不明瞭な独り言が漏れ続ける。
ひとしきり設備をいじくり、何らかの調整を加え終えると「ふうう」と疲労感がたっぷり染み込んだ溜め息をつく。いったんハンドルから手を離し、両腕を上に力を込めて伸ばす。硬直していた筋肉がみりみりと伸され、関節がぼきぼきと生物の音を鳴らす。
一時的な柔軟体操を軽く済ませたウサミは、サングラスをかけ直しおもむろに操縦ハンドルに隣接されてある、スライド式のつまみをかちりと押した。
「えーこちら操縦席。通常基本動作に異常はなし。多少のラグがあるものの、今回の作戦には支障なしと判断できる。燃料もたっぷりあるしね。というわけで隊長、ご指示を」
ウサミは素晴らしく気持ち悪く似合っていない堅苦しい口伝を隊長に、つまりルドルフに言った。
ルドルフは皺がよるほど硬く瞼を閉じ、黙って報告に耳を糧向けていた。帽子の中身がもぞりと動き、毛に包まれた尻尾が微かに揺れる。
彼はしばし考え事を巡らすように黙る。そして長いまつげを震わせ目を開けると、唇の隙間から早く深く呼吸をして声を発しようと試みた。
「了解。本作戦の迅速な解決を考慮して、兵器の駆動をあ…。ぼ、僕が、ルドルフ・オウカメが許可する」
若干、というかそこそこ迫力に欠ける宣言を、精一杯高らかにした。
ウサミは宣言を受け取ると、たるんでいた体を一気に緊張させた。口元が笑っているように見えるのは俺の勝手な思い込みか?
「了解しました。隊長ルドルフ氏の命により、多機能式防衛兵器フェアリービーストを駆動させる」
彼は再びハンドルを固く握り、指の下に仕込まれているボタンをカチカチと操作させる。すると操縦ハンドルが淡い光を帯び始めた。闘争心が掻き立てられる機械的な光が、ウサミの周辺で明滅し始める。
「さあて、仕事の開始だよ」
ウサミの表情は子供のように輝いていた。それは決して無垢な幼さがあるわけではなく、むしろ吐き気がしそうなほどそれは大人びて干からびている。だからこそ、近寄りがたい力強さがみなぎっていた。
「フェアリービースト、略して妖獣、駆動!!」
操縦士は足元の無骨なペダルをためらうことなく、全力で踏みしめた。
ああ…。後書きがなんにも思いつかない…。私はどうして、こうも駄目なのか。