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つくしんぼカビナ

ウサミの戦いも始まろうとしていたのだった。

 とんでもなく明確に、彼はマッサージチェアには座らなさそうな男だった。

 無論此処は温泉旅館ではないため、座っていないのは至極当然のことである。だが仮に俺の気が狂って彼を、ウサミを温泉りゅこうに連れて行ったと仮定して、さらにそこに都合よく電動マッサージチェアが設置されている家庭を重ねたとしても、おそらくウサミは座らない。ましてや銀色の硬貨を捧げて得るいとまの快楽に対して。

「お金払ってまで機械にマッサージしてもらうとか意味わかんなーい、奥さんか娘さんに頼めばタダでもみもみしてもらえるよっ★」

 なんて二重にも三重にも腹立たしい回答を返してきそうだ。

 …俺の勝手な妄想だけど…。

 なんにせよウサミは椅子に座っていた。非常に気楽そうに鼻歌を歌いながら、椅子の周辺に設置されている種々雑多なスイッチやらレバーなどを調整している。

 本当にたくさんの正体不明な装置があった。雑多に見えるその山と川は、一見人を寄せ付けない機械然とした一面を感じさせる。だが意識を根毛のように伸ばしてみれば、他人行儀な茂みからピクトグラムみたいな親切さが垣間見えそうな、そんな予感がよぎる。

 好奇心がにょっきりと牙を生やす。興味が引かれた俺は誰に見られているわけでもないのに、わざとらしく嫌そうに眉間にしわまで作って、しかし瞳の輝きを抑えきれず観察を開始した。

 春先のつくしみたいに伸びているレバーは、ウサミが座っている椅子を挟んで左右にそれぞれ数本、等間隔に密接している。長さとサイズがそれぞれ異なっているところが、奇妙な生き物感を醸し出す。

 ウサミはそれらを忙しなく握っては動かし、手を離して1秒ほど考え、また別のレバーを動かす、その動作を繰り返していた。

 何をしているのだろうか?俺には全く解らなかった。

「久しぶりだからな…」

 ウサミが小声で呟いた。サングラスを外して目の間を揉む。赤い瞳孔が疲労をたたえていた。

「調整はしっかりしないとな」

 手の指をウェーブのように曲げ伸ばし、筋肉を伸縮させて血液を巡らす。そして両手を体の前へと伸ばした。

 ウサミの前にはなんというか、いかにも夢が詰まっていそうな操縦席があった。機械に全く無知である俺でも直観的にここは操縦席だと解る、そのくらい素晴らしいデザインの操縦席だった。この世界がアニメーションだったら、勇猛で目がきらきらと生きている少年が座って、世界の巨悪と懸命にに戦うかもしれない。

 しかし残念ながらこの世界は毎週土曜日5時30分の世界ではない。よって操縦席に座るのは、どう少なく見積もっても30代はこえていそうな中年男性である。

 だからどうした、と問われれば答えられる自信が俺にはない。

 なんにせよウサミには操縦席が悲しいくらいに似合っている、それだけは確信が持てそうだった。

気圧が低いと頭痛と吐き気がします★

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