言い逃れにハートレス
ルドルフの怒りがマイカを貫く
「あのですね、お勉強をしようとしたんですよ」
俺には想像もつかない嘘を、ソルトは言ってのけようと試みる。
「お勉強だと?」
純粋なる疑いの色を、ルドルフは瞳に浮かべた。ソルトはそれに怯むことなく、果敢にも偽りを続行する。
「はい、そうなのです。転生者様であるマイカさんは、ここバルエイスより遥か遠くの異国から、はるばる訪れてくださったのです、よね?」
言葉を区切って俺に目配せをしてくる。
「そ、そうなのです。失礼ながら訪れたのです」
ほぼ条件反射的に、俺も嘘に加担した。
「ですので、初めての異国の地となれば、何かと不安なことが多いと思いましてですね。というわけで若輩者である私めが、生まれ故郷であるバルエイス共同保護区のすんばらしい魅力を、全身全霊を以て観光させたもうと、そう思った故の行動だったわけなのですよ!」
よくもまあそんなにも、すらすらといけしゃあしゃあと、事実無根の虚構を生み出し組み立てられるものだ。俺は別に異国からの来訪者などという、親近感のある存在なわけがないのだが。
「…」
以上の言葉を、ルドルフは眉間にしわを寄せたまま黙して聞いていた。彼の後ろ、臀部から生えているこの世界の住人としての証である、丸みのある尻尾の毛が膨れた気がした。むろんそんな事はないのだが。ただ帽子の中身、隠された頭部が蠢いたのは確かに確認した。
「ほう」ルドルフが言葉をじっくり吟味する。
「ならば貴様らは、この広大なバルエイス共同保護区内を隈なく、埃の一かけら見逃すことなく、観光しつくそうとしていたわけだということなのだな?」
嗚呼だめでした、と俺は察知した。ルドルフはそもそも理由など求めていなかったのだ。彼が真に問題としていたのは、俺たちの行動そのもの。非常事態にもかかわらず呑気にしまくって、焼肉なんかを食ったことについてなのだ。いや、食べた物のメニューについてはさすがに彼も認知することなど不可能だが
だけど彼、ルドルフは知らなくともすべてを見破り、そして最初から激怒するつもりだったのだ。この状態の人にはいかなる嘘も、もちろん真実だって無関係なのを俺はよく知っているはずだったのに。
ソルトはこれ以上ないほど、1.5メートルに到達するほど目を泳がせ、俺に至っては体の水分全てを流さんばかりの冷や汗を、ナイアガラの滝のごとく首筋から伝わせていた。
はああああ。ルドルフが深呼吸をする。俺は幽かに、だが確かに彼が感情の急展開を催すことを期待し、希望した。
そしてそれらは叶うことはなかった。
「貴様らは…。この非常事態に何呑気にやっとるか!!」
少々訛りのある怒号が、俺達に真正面から叩き付けれられた。
私の人生はいつだって、言い逃ればかりです。