無謀にも言い訳を挑む
不機嫌な若者ルドルフ、怒りを収めるためにマイカは決心する。
お前は誰だ?
「ええっと、君は誰?」
変にロマンチックな質問をしてしまう。若者は精一杯、自信満々に自己紹介を始めた。
「僕の名前はルドルフ、ルドルフ・オウカメだ」
言葉の、特に名前と思わしき部分を、慎重に発声しているような印象を受ける。
「貴様の所属する防衛部隊の隊長だ」
「ぼ、防衛…?」
ぱりぱりとしていそうな制服を身にまとい、かっちりとした帽子を目深にかぶったルドルフは、いきなり身に覚えのない事柄を述べ始めた。
「すんません」
「何だ」
「俺その、防衛隊とかに所属した覚え、無いんすけど…」
「何?」
ルドルフはあからさまに不機嫌になった。今は話をややこしくする暇は無く、一秒だって時間が惜しい。そして俺の生来の軟弱さによって紡ぎだされる、なよなよした話し方もお気に召さないらしいルドルフは、初対面を感じさせないほどの解りやすさで苛立ち、俺の顔をじろりと刃物のごとく睨んでくる。なんだよこいつ、やべえ超怖えよ…。
「癒術士!」
ルドルフは不機嫌な体育教師みたいな声で、そわそわとしているソルトを呼んだ。ソルトは「はい!」
と半ば意地気味に焦点を合わせようとしない目線をルドルフに向け、軍隊がよくやるような敬礼みたいなポーズをぴしりと作る。
「貴様、転生者への状況説明を怠ったな?」
肉食獣の威嚇行動のごとき鋭い視線が、ソルトの肉体に実体を伴合わない刃となって、ぶすぶすと刺さりまくる。
「あの、あの」哀れなソルトは必死に弁明を生み出そうと、水分たっぷりの脳みそを稼働させていた。
「マイ…。転生者様へのご説明は、ファーザーが、モティマ博士から十分、状況を認識できるほどになされていると、報告されていまして…」
とても大人っぽい説明が、見るからに幼い少女の口から捻り出されていることに、俺は呑気にも笑いをこっそりと噛み殺してしまう。
「説明と確認の重複は、基本中の基本だろうが!お前の父親とやらは、そんなことすらろくに教育しなかったのか?」
「すみません…」
一方的で身勝手な叱責を、ソルトは身を縮ませて聞いている。
「しかも独断で無暗に転生者を外出させるとは…。不測の事態が起きたら、責任が取れたのか?」
「すみません…」
「あ、あの」
このままソルトだけを叱責に晒すことは、俺の無意識が許さなかった。
頭上では機械が黙って見下ろしている。俺は理由を、精一杯大人らしく導き出す無謀な決意を決めた。
今思い返してみると、体育の授業で活躍した記憶が全く残されていません。そもそもそんな事実すらないのかも。