彼女はいかに美しいか
マイカは運命的な出会いに、つい心を奪われてしまう。
俺が彼女に、その機械的なものに対して抱いた第一印象は、失礼なことに「ものすっごいデケー虫」といった感じだった。
まさしく巨大で、いかにも強大そうな機械だった。想像力と表現力が致命的に乏しい俺には、その期待が何たるかを説明し難い。絵が達者であったならば、スケッチをしたいところだが、それも不可能だ。なので、出来るだけ具体的に機械の姿をとらえようと試みる。
まずその機械は、素晴らしい胴体をもっていた。主に円筒状の体には、美しい赤色の彩色が凹凸に輝いている。果てしなく開放的な未来に、どことなく閉塞的な、民族意識を呼び起こさせる文様が刻まれた胴体からは、見るからに剛健で、しかしどことなくたおやかな4本の足が生えている。といった感じの、なんともロマン溢れる、すんばらしい巨大機械であった。
機械は足に備え付けられた、クレヨンの先端みたいなタイヤを器用に、ぎゅりぎゅりと軋ませ地面を食らい、建築物の茂みを飛び越え、地面と壁に多少の亀裂と陥没を生み出し、窓ガラスを少々粉々に砕いて力強く敏速に、そして次第にしなやかに緩慢に確実に、俺たちのいる地点まで近づいて優雅に停止した。
機械が目前まで迫ったことにより、俺はその巨大さに無意識の内に改めて圧倒される。
遠くから、例えば時計塔などの建造物の頂上から観察すれば、この機会は全体的にほっそりとした、冬の枝をイメージさせるのかもしれない。だがこうして、目と鼻の先に観察してみるとやっぱり巨大で、あえて数字で例えるなら、ゆうに40メートル程のサイズはあるのではないか。
「おい、貴様が転生者か?」
頭の中で勝手に、あるロボットアニメのオープニングソングが流れ始める。思わず愛に震えてしまいそうだった。
「おい、聞いているのか?貴様は転生者ヤエヤママイカなのか?」
堪えきれなくなり、勇気を出して機械に触れてみる。うーん?触ってみるとロボット的な金属の冷たさはなく、血液に触れたような生々しい暖かさがある。限界まで目を近づけてみる。すると金属だと思っていた足の表面は、実は細やかな板の連なりであり、それが鱗のようにひしめき合っていて、俺は毛穴が引き締まるのを感じる。
「聞こえてないのか、ふざけているのか?」
鱗はあくまでも魚のそれとは異なり、触感的には炎天下のアスファルトに似ている。鱗の隙間からは、絶えず白い水蒸気が立ち上っていた。
「返事をしろ!転生者ヤエヤママイカ!」
何だったかなあ、こういう生き物みたいなロボット。そういうのに近いのがあった気がするけど、なんていう名前だったっけ?
「せいっ!!」
考え事をしまくっていたら、後頭部を何者かに盛大にはたかれた。
「ぅひいっ?!」
突然の攻撃に変な声がでる。
「やっと認識ができたな、ヤエヤママイカ!!」
「はいっ?!すみません!」
厳しい声に叱責され、俺の背筋がびしりと固まる。
「まったく、貴様はまともに返事もできないのか」
慌てて声のする方に体を向ける。
そこには若者がいた。たぶん俺とそう変わらないであろう年齢の、気が強そうで気難しそうな、精悍な顔つきの若者が、腕を組んで仁王立ちしながら黒く輝く瞳で、俺のことを真っ直ぐ睨んでいた。
今回はパロディーに挑戦してみました。お目汚しかもしれませんね。