幕間 ウサミさんの優雅な朝(戦闘開始)
男の、やらざるを得ない仕事が始まろうとする。
そこにはラココという名の男性が、それはそれは忙しそうにしていました。ラココさんはウサミさんの上司にあたる人です。とても大人らしい面倒くさがり屋で、何時もの何も起きない日だと、自分の机から一歩も動かず夜に部下、主にウサミさんをお酒のお店に誘う、そんな普通で平和な上司なのです。
「ラココプレジが、朝早く出社して私に珈琲を頼もうとした時から、何となく嫌な予感はしていたんすよ」
「徹夜明けの君に、ドリンクを注文するなんて命知らずすぎる」
ウサミさんとティルさんがひそひそ話をしていると、ラココさんがこちらに気付いて、どしどしと小走りしてきました。
「やあやあウサミ君、遅かったじゃないか、いや遅いなんてことないけれど、むしろ早すぎるくらいだけれど。そんなことより」
「緊急事態が発生したのですね、部長」
ウサミさんは真面目に答えます。
「そうなんだ、それで・・・」
ウサミさんは嫌な予感がしました、有り得ない予感のはずです。ラココさんは重たそうに口を開きました。
「例のあれ、使うことになったんだ」
あれと言われても、わからない人がほとんどでしょう。しかしティルさんには理解できました。
「待ってください!あれはまだ、実用に即せるほど実験が組まれていませんよ」
「そう言われても」わかっていることを、部下に指摘されたラココさんは、眉を八の字に下げて反論します。「上からのお達しなんだ、今すぐにでも運用が必要とされている、できるだけ安全な運用が。だから」
ラココさんは、矛盾した要求をウサミさんに向けてきます。
「ウサミ君の経験が必要になったんだ」
「そんなの・・・」
なおも食い下がろうとするティルさんを、ウサミさんが制止しました。
「了解しましたラココ部長、ボクに任せてください」
ウサミさんの了解に、ラココさんはとりあえず顔を明るくしました。
「そうかいそうかい、わかってくれて良かった嬉しいよ。早速だが操縦の準備とレクチャーが必要だ、急いでくれ」
そう言って、ラココさんはそそくさと自分の仕事に逃走しました。その背中には、非日常から逃れることのできた、大人の安心感が滲んでいます。
ティルさんが、不安そうに宇佐美さんの目を覗き込みます。
「まさかとは思っていましたが、本当に転生者が現れたんですね。実感がわきません」
テレビのニュースを見る少女みたいなことを言います。
「じゃあ噂になっていた、不具合も・・・」
「確信のないことを、あれこれ言うべきじゃないよティル君」
ウサミさんは、意図的に言葉を中断します。
「大人という生き物には、必要とされることを求められたら、どんなことでも笑顔で受け入れなければならない、そんな強さが求められるんだ。たとえ」
ウサミさんは例の兵器、フェアリービーストへ進みます。
「たとえ、いきなり巨大兵器を運転しろと言われても、笑っていなければならない」
「命の危険があってもですか」ティルさんが後ろから問いかけます。きっと顔には相変わらず似合わない皺が刻まれているのでしょう。
耳が疼いたので、ウサミさんは帽子をかぶりなおしました。
「やれやれ、しばらく忙しくなりそうだ」
奥さんに連絡しないといけないな。ウサミさんはそう思いました。
ウサミさんの話はいったん終了です。長々とすみませんでした。