幕間 ウサミさんの優雅な朝(緊急事態)
男の職場は緊張感に包まれていた。
忙しい職場というものは、それだけで何か危機的な命に係わる何かを、針のように体を刺激します。ウサミさんは少し特殊な仕事をしていました。仕事に特別も何もなく、本来なら甲乙つけることなど必要ない、のですがやっぱりウサミさんの仕事は、あまり人にご紹介することが賞賛されるものではないのでした。言うほど怖い仕事じゃないのにな、はウサミさんの意見です。
慌ただしい職場には、ウサミさんと同じ服、薄緑色の頑丈そうな作業服を身にまとった作業員の皆様がそれぞれの仕事を懸命にこなしていました。数々の視線が、職場を駆け巡っていました。
一人の作業服を着た女性が、ウサミさんに近づいてきました。
「ウサミさん、お早うございます」
彼女の名前はティルと言います。うら若い彼女は朝だというのに、すでに疲労を顔から醸し出し、額には薄い汗まで滲ませていました。
ここで告白しますが、実はウサミさんは職場で、そこそこの地位を獲得している男性なのです。ですのでティルさんは、ウサミさんの部下にあたる女性なのでした。
「やあティル君、お早う。ずいぶんと早いね、ていうか早すぎるね、何時に出勤したの?」
自慢ではありませんが、ウサミさんはなかなか真面目な社会人で、出勤時間も平均に比べて一時間ほど早いと自負してたのです。
「出勤はしていません。今日、というか、昨日は徹夜でそのまま職場に泊まって作業し続けていました」
ティルさんは若い肌に黒ずみと皺を刻もうとしています。
「だめだよティル君、うら若い乙女がそんな戦場じみた疲労に身を晒したら。常人より早くおばさんになっちゃうよ」
「ラココプレジが呼んでいますよ」
ティルさんはウサミさんのハラスメントじみた気遣いを無視しました。
「部長がボクを呼ぶってことは、なるほど」
「ええ、なるほどです。かなりヤバいです」
ティルさんは若者らしい言葉遣いで、ウサミさんを上司の元へ案内しようとしました。
「部長は机にいないの?」
「もうすでに自ら作業場に移動しました」
「なんと!」
「やらなくてはならないことが、時計塔より高く山積みですよ」ティルさんはがりがりと頭を掻き毟る。 これは風呂にも入っていないな、とウサミさんは察しました。
「警報はまだ鳴っていないみたいだね」
「今回は例外が多く、まだわからないことが多いのです。こんなこと、あの日以来ですよ」
ティルさんの顔に、疲れ以外の生命反応が現れます。
「大丈夫だよ」
ウサミさんは感情を押しのけるように、無責任な言葉を発します。
「何が来ても、どうとでもなれ。だ」
「無責任ですね」
ティルさんは目的地の、作業の重たい扉を開けました。
ゴールデンなウィークですね。