セイレーン・ランチタイム
警告文がマイカと人々の感情を揺さぶる。
サイレンはけたたましく鳴り響き、鳴り続けていた。人の危機本能を切り付け、抉り穿りまくるその音を、俺はいたって平気にぼんやりと聞いていた。
お昼下がりの平和なランチタイムの空気に包まれていた焼肉店は、一瞬にして非日常に怯える緊迫感に支配された。
つい先ほどまで頬を緩ませて、肉を頬張っていた客たちは皆一様に、口元を引き締めてサイレンに意識を集中させていた。店員の落ち着きのない足音が、肉の焦げる炭素の香りをかき乱している。
[警告、警告。楽園牧場、家畜管理所にて、未確認生命体の発生が確認されました。危険レベルは4、危険レベルは4。現在、防衛隊が侵攻を食い止めるため、全力を以て奮闘しています。区民の皆様は、万が一の事態に備え、今すぐに身の安全を確保してください。これは訓練ではありません。区民の皆様は今すぐに、お近くの非難シェルター、または安全な場所へ避難してください。これは訓練ではありません。警告、警告]
幼い子供のような高い声の女性の声が、一方的な警告文をサイレンの音と紛れて伝えてくる。それらの音は、店内の天井に異様に大きく目立つところに設置された、白く大きい拡声器から機械的に流れていた。
「何?」「レベル4?」「レベル4だってよ」「嘘でしょ?」「お客様落ち着いてください」「馬鹿嘘なわけないだろ」「また避難勧告か」「警告です警告が発令されました」「勧告じゃない警告だよ」「急いで地下シェルターへ避難してください」「レベル4も警告も久しぶりだわ」「いつものと違う」「どういうことだ」「何が起きるんだ」「わからない」「怖い」「非常用通路はこちらです」
様々な種類の声が、一様な感情をのせて店内に充満した。もはや肉を焼かずに皆、席を立ってそそくさと緊張感を持って立ち上がっている。
座っているのは俺と、ソルトの二人だけだった。
「おいそこのアベック」
声をかけられた。
公共施設や飲食店など、人が集まる施設には非難シェルターを設置することが義務付けられており、違反すると厳罰が処されます。