ラーメンはお預け
食事中の彼らに異変を伝える音が鳴り響く。
「ソルトもなんか食べなよ」
俺はトングを掴んで、見事な味付けをされた肉を、たぶんカルビを摘まむ。
「あ、私はいらないです」ソルトは胸の前で手のひらをかざした。
「いやあでも、俺ばっかり食べるってのも」
俺の罪悪感が耐えられそうにないし、彼女にも何かしらの栄養が必要だ。何せ俺よりも遥かに運動量が多いのだから。
「いえ、ほんとにいらないのです」しかし彼女は頑なだ。
「もしかして、肉嫌い?」
俺は急に不安に襲われる。かなり今更だが、彼女に無理ばかりさせ俺だけが美味い思いをしているなんて、許されざる行為だ。
「いえいえ!決して食べられないということはないですよ。ただあまり好まないというだけで」
「やっぱり苦手じゃないか」
なんということだ、だれか今すぐ俺を罰してくれ。あわててメニューを掴み開き店員を呼ぶ。迅速に急速に、何か肉以外のメニューを彼女のために用意しなくては。
「店員さんっ彼女が気に入りそうな何かくださいっ」
「ええと、お水でよろしいですか?」
店員はやんわりとした非難の色を向けてくる。
「ああいや、水はもういいです」
本当はもっといけます。とソルトが視線を投げかけて気がしたが、それは無視する。これ以上この店の水道代を侵食したら、ソルトに栄養を食わせるより先に、出禁を食わせられそうだ。何か何か
「ソルトっ何か食べたい?」
「いえ何も」
「何かあるでしょうよ」
「うーん。じゃあラーメンで」
勝手におれはサラダを期待していたので、少々面食らう。さんざん水分を摂取した挙句に、さらに汁気を求めるのか。
「かしこまりました」
店員も同じことを考えたらしく、幽かに顔をしかめた。だがあくまでも仕事らしく、笑顔で受注した。
「ラーメン楽しみです」
「サイドメニューのラーメンって、不思議と美味しいよな」
俺は店員の仕事意識に感謝した。
さあ後は食事を終えて、また平和そうな世界に戻ろう。そう決意を固めようと俺は息を吐いた。
その時。
耳を突き破るサイレンの音が、世界に鳴り響いた。
ラーメンを定期的に食べたくなる病を患っています。