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勝利するデザイナー

手の平の紙片。そこに描かれたものは、二人に予想外の喜びをもたらした

 それにしても不思議に思うことがある。

「さっきのあれは何だったんだろな?」

「あれ、とは何でしょうか。転、じゃなくて、マイカさん」

 ソルトが少しぎこちなく聞き返す。

「ほら、あれだよ。さっきの男性陣の一人が、急に倒れたこと」

 俺が言っているのは、野郎共に攻撃された後のことだ。それまで曲がりなりにも元気いっぱいだった野郎が、俺の介入をきっかけに尋常じゃない苦しみ方をした。そのことが疑問になっている。

「そうですね」

 ソルトは人差し指を唇に当てて、じっと考えを巡らす。言葉を選んでいるように見えた。

「私には、マイカさん気になることを、納得のいく形でお伝えすることは出来ません」

 彼女は真摯にこたえようとしていた。

「ただ、この世界には貴方にとって、理解し難い大きな力があることを、想像することを覚悟してくださいませんか?」

 覚悟、と言われても。急に壮大なことを言われそうで、正直戸惑ってしまう。だがソルトの言葉に冗談は含まれていなさそうだ。もしかしたら、何か言い辛いことを聞いてしまったのかもしれない。俺は話題を変えることにした。

「覚悟か、覚悟は腹が減りそうだな」

 とりあえず生理的な欲求に即したことを言ってみる。

「ああそうでした!本来の目的をすっかり忘れていました!」

 ソルトはしまった!という表情をする。そうなのだ、俺達は俺の食欲を満たすために、わざわざこんな所まで外出してきたのだ。建築物から外に出て、こんなにも移動したのはずいぶんと久しぶりのことだった。

「ええと、お肉が食べたかったんですよね?」

 ソルトはキラキラとした目で俺を見る。

「そ、そうだったかな」

 改めて言葉にしてみると、下らない要求すぎて呆れてしまう。でもどうか言い訳させてほしい。本当に肉が、上手い肉が食べたかったのだ。

 気まずくなった俺は、所なさげに手の平を見る。そこには、ムクラから握手の際に手渡された割引券が握られていた。それをしっかり見て、つい笑いがこぼれてしまう。

「マイカさん?どうかしたんですか?」

 ソルトが不思議そうに俺を見る。

 こんなご都合があってもよいのか。いや、たまにはあっても良いのかもしれない。お節介というものは往々にして、損害ばかりを生み出すものだが、今回はどうやら例外だったみたいだ。それが良いことなのか悪いことなのか、今は考えないことにしておく。

 俺は一種の自慢を込めて、手のひらの紙片をソルトに見せる。

 その紙にはなんと書かれているのか、俺には理解できなかった。いまだに言葉は聞き取れても、文字は分からないらしい。だが、そうであっても内容を察することができ、その予想はソルトの反応を見る限りでは、見事に的中したらしい。

 ソルトがにっこりと笑う。彼女の目にはにこやかな獣人たちが、見慣れた銀網を囲んで赤い肉を焼いているかわいらしいイラストが描かれており、そしてその横に地図と思わしき者も小さく描かれていた。

 まったく酷いご都合主義だ。俺は神に祈る代わりに、割引券をデザインしたデザイナーに感謝することにした。まさしくデザインの勝利である。

ご都合主義ってわかっていても、やっぱり毎回ワクワクしてしまいます。

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