2分の1の賛成
ムクラの礼を本心から受け取れないマイカ、ソルトが語る世界の影が彼の心を揺さぶる。
「俺の名前はマイカ、マイカって言います」スタンダード中のスタンダードな自己紹介を俺はムクラにした。
「マイカ!かっこいい名前だね」
「そう、か?」そんなこと、生まれて初めて言われた気がする。女の子みたいな名前だね、とは耳にたこができるほど言われ続けてきたが。
「うんうん、そうだよ。そうに決まってる、僕が保証する」
どこまでが本気なのかわからない言葉と共に、ムクラはずずいと無言で握手を求め続ける。俺は幽かに困惑してしまった。この世界のこの国の文化では、こうしたスキンシップが盛んなのであろうか。迷いのまま手をまごつかせていると、ムクラはその手をがっしりと強引に掴んだ。
「へい!握手やっほう!」
「や、やっほう・・・」どういうテンションなのか。
「やっほう!私はソルトです」
ソルトまで手を重ねてきた。ムクラの顔が熟した苺のように赤くなる。道端で三人の男女が、手を重ねあって円陣を組む姿勢となり、俺は言いようのない奇妙な居心地の悪さを感じる。
「そそ、それじゃ、僕はこれにて。急がないとほんとに遅れちゃう」
ムクラはソルトが触れた部分を意味ありげに擦り、回れ右をして道の中、人ごみへと姿を沈ませた。
なんというか、ありとあらゆる物事が強烈だった。俺はため息をつく。どうかあの肥満、じゃなくてムクラが無事に、もう二度と怖い野郎共に恐喝されませんように。と軽々しく神に祈ってみた。
それにしても。
「いまどきカツアゲなんてあるもんだな」
言った瞬間に俺は後悔をした。いまどきも何もそんなものは俺が生きてきた、そして死んでいった世界の常識であって、この世界とは別物なのだ。大体俺が何を言える立場なのか、ただの気弱なごく潰しだった俺に、人のことをとやかく言う資格などあるのか。
「彼らは失業者なんです」
俺の自己嫌悪を突き破って、ソルトが事情を説明した。
「近年バルエイスでも有数の証券会社が潰れましてね、それはもうたくさんの失業者の方々が路頭に迷ったのですよ。おそらくムクラさんに絡んだのはその関係者だと思われます」
「そ、そうなんだ・・・」なんか急にしょっぱい話になってきた。
「そうなのです、大人は大変なのですよ。私たち子どもは本来なら大人を労わるべきなのです」
ソルトは路地裏に背を向ける。
「ただし暴力には全力で暴力を捧げますがね。もちろん、それ相応の報いを覚悟の上で、ですが」
彼女の言葉に、俺は半分だけ賛成した。
日常の端々で何かしらの神に祈ることが良くあります。ちなみに今日はつり革の神に祈りました。