奇妙な呼吸
男性の体に攻撃を与え続ける異変、マイカはその正体を理解できないでいた。
命に係わる緊迫感が、野郎の洗練されていない肉体を支配していた。感覚が何らかの奇跡によって実体を与えられたならば、この場合は巨大な蛇となるだろう。しめ縄のように太い体が獲物の、野郎の生命活動を締め上げ、呼吸を搾り取ろうとしている。
「はへ、はへ、はへ」
間抜けに聞こえてしまう浅い息が、乾いた唇からかさかさとこぼれる。明らかに体が衰弱へと向かっているはずなのに腕の力は消えておらず、胸のあたりできつく握りしめられている。その手はもはや、皮膚が漂白したように青白くなっている。服を千切り皮膚を破り肉と血管をかき分け、心臓を手のひらで抉り出したい、そんな願望が野郎の消えかけの意識から立ち込めていた。
しかし体はいつしか限界を迎えようとしていた。命を取り戻そうと懸命に上下していた肩は次第に動きを鈍らせ、水が氷るように硬さを持ち始める。まだかろうじて呼吸はできているみたいだが、それも頼りないものだ。ぽかりとあいたくらい口内からは小鳥の吐息ほどの風しか流れず、その代り白く糸を引く唾液をぼとぼとと落としている。まるで切り傷からあふれる血液のように、唾液が次々と口からあふれ唇の端を湿らせて乾かすことを何度も繰り返している。
野郎の顔は相変わらず青白かった、俺の目をまっすぐ見ている。破れそうな勢いで張りつめている顔面は、苦しそうに歪み黄色い脂汗を大量に排出しているため、不気味な色彩となっている。
ここ目で苦しめなれながら、意志を支える糸はいまだしつこく体を釣り上げていた。
雨の日はなぜか体が痒くなります。