嫌悪感を抱かせる血液
負傷したマイカ、だがダメージを負ったのは彼だけではなかった。
母さんの言うとおりだった、血液って気持ち悪い。真っ赤で触るとぬるぬると肌を滑る。空気に触れると、もはや必要はないにもかかわらず、ぱりぱりと茶色く凝固しようとするところが実に不気味で腹立たしい。こんなものを体中に満たして、生きている自分が腹立たしかった。
「な、なんだよお・・・」
呑気に感慨にふけっていると、痛みによって麻痺している鼓膜に野郎の弱々しい声が届いた。
「そっちが、そっちが悪いんだからなあ。お前が悪いんだからなあ」
彼はソルトを傷つける意志などなく、ましてやまるで認識のない俺など対象の端にも入っていなかったに違いない。可哀想、までとはいかないが少し同情する。だが、一度でも人に刃物を向けるなら、傷つけようとする意志が生まれたのなら、相応の代償が必要になるのだ。そしてその法則は野郎にも平等に降りかかろうとしていた。ただし予想外の痛みを伴って。
「あ、ああ・・・」
浅い呼吸が空気を揺らす。見ると野郎の顔面に玉汗がつぶつぶと光っているのが分かった。俺が視線を向けているのを認識すると、「ひっ」と喉をひきつらせた。相変わらず顔が痛かったが、出血はだいぶ治まっている。どうやら表面を少し切っただけらしい、だから大丈夫ですよ、とこの場にいる全員に俺は伝えるべきだったのだが、できなかった。野郎の顔があまりにも異様な状態を訴えかけていたからだ。
「きひい、きひい」荒い呼吸はやがて、空気漏れみたいな鋭さを持ち始める。
玉汗は止まることを知らず、しわの多い顔をてらてらと光らせる。とめどなく汗が流れているにもかかわらず、野郎の顔色はみるみるうちに魚の腹みたいに青白くなっていく。
「けは」奇妙な吐息とともに野郎が手で心臓のあたりを、抉り出さんばかりに握り始めた。着古されているであろう色あせた服にしわが走る。
「おい?だいじょうぶか?」
切られた奴が切ったやつを心配するのも奇妙だが、そんなことはどうでもいいと、頭の絶対凍土な部分が冷静に状況観察を命令していた。
不安になって再び頬に触れると、まだ湿っている傷口の赤い柔らかい中身にうっかり侵入してしまい、「痛っ」と声に出して顔に出してしまった。
「あ、あ、あ、あひああああああ」
野郎がついに地面に倒れた。
切り傷はちゃんとした対処をすれば、割ときれいに治ります。