包丁の攻撃性
渦中に介入したマイカ、彼はある感覚に懐かしさを覚える。
「やあやあどうも、ご機嫌麗しゅう!」
自分でもどうなのよと思う挨拶をしてしまう、せずにはいられない。蘇った野郎は突然割り込んできた正体不明の男、俺に対してあからさますぎる嫌悪感を瞳に浮かべる。
「なんだテメエ・・・またガキが増えやがった・・・なんなんだよチクショウ・・・」
心のこもった嫌悪感は、生臭い呼吸の繰り返しとともに憎悪に代わっていく。いくら女の子にぶちのめされたからって、初対面の俺にまで憎むことはないんじゃないか。なんて言い訳をしたくなったが、それをのたまえる資格は俺にはない。何より今すぐここから離れたかった。野郎の直視に耐えない目から注がれる視線が、俺の子供用包丁より鈍い勘に警報を鳴らさせた。
「ソルト、行こう・・・!」
俺はソルトの手を引いて、できるだけ遠くに立ち去ろうとした。が
「おい待てや!」
野郎はそれを阻止しようとする。無視して進もうとしたら、瀕死の獣のような息遣いと同時に、俺の腕が希望する進行方向とは逆に引っ張られる。首を回すとソルトの姿がまず目に映る。彼女の片手を俺は握っている、そのまま彼女の腕を通して視線を移すと、もう片方の手が見えた。白くて柔らかそうな腕は茶色く濁った拳に握られて、ささやかにひしゃげている。野郎が俺たちを引き留めたい一心で、つい先ほどまで暴力を巧みに振るいまくっていた女の腕をつかんでいたのだ。その勇気たるや、俺が校長先生だったら表彰したくなるほどである。
去ろうとする男とそれを阻止する男。両者は女を挟んで、玉すだれよろしく三連になった。傍から見ればそこそこの間抜けさを誇る状態である。だが野郎の無尽な怒りの前では些細なことだったらしい。
「ちくしょおお、何だってんだ・・・。なんで俺がこんな目に・・・」
ごめんなさいそれは俺のせいです、だけどあなた方も悪いんですよ。言い訳をすることはできなかった
野郎の黄色い前歯の隙間から、唾液をたっぷり吸いこんだ息が勢いよく吹き出す。
顔の皮膚にぴりぴりと電流が走る。数日ぶりの感覚に俺は郷愁を覚えた。
幼い頃、買ってもらった子供包丁がすごく使いにくくて、結局普通の大人用包丁使っていました。指を切りまくった思い出があります。