幕間 からからの喉
番外編、というより補足です。不規則に気まぐれに書くので、気楽に読んでください
一人取り残された俺は、ついに喉の渇きを抑えられなくなった。視線は自然とある一転へと移動する。照明を反射してつやつやと光る木製の机の上、そこに置かれた手のひらに収まるほどの大きさの容器。円柱に近い形状のそれは、なぜか懐かしさを抱かせた。
中を覗き込んでみる。容器の中には液体が収められている。色は透明で、容器の底が見えるほど透き通っている。なぜか緑色を期待していた俺は落胆し、そして警戒を強める。そうだ、飲んではいけない。こんな正体不明なものを飲むなど、自らの太ももをサバンナのライオンに晒すのと同じくらい危険だ、そうに決まっている。
口腔内のかさつきを誤魔化すつもりで、部屋の中を見渡してみる。なんというか綺麗な部屋だった。何かしらの記念日に女性をこの部屋に連れ込んだら、間違いなく1センチ以上は愛へと前進しそう。と勝手に想像できてしまうほど、整った一室だった。やわらかくて座り心地がよすぎる、背もたれに空洞があるタイプの椅子から尻を上げる。足の裏の皮膚が体重に圧迫される。そういえば裸足だった、靴を履く余裕すらなかった。再び蘇りそうな記憶を抑えると、水分不足が限界に達した。もう我慢できない、俺は意を決して容器を鷲掴み、透明な液体を唇に接触させた。たとえ毒が、もしくは極端に若返る薬が混入していようが関係ない。そう、関係ないのだ、だって俺は
喉を上下する、液体が体に喜びを以て受け入れられるのを胃で感じる。冷たいと思い込んでいた液体は意外にも温かく、そして何の味もしなかった。もう一度口に含んでみる。今度はしっかりと味覚を活動させ、飲み込む。やはり何の味も、薬らしい奇妙な甘さも飲料水らしいうまみも、何もなかった。無味無臭の無害な液体、というかこれって
「水じゃん」
正しくはお湯だ。先ほどの異界人がさもうまそうに飲んでいたのはただの水だった。
本編では描写しきれない部分を誤魔化す、もとい補足する文章を幕間として書いてみました。読者の皆様がより本編を楽しめるように、できるだけ心がけたいものです。