きらきら
とても綺麗ね
「キラキラァーはー、息を止めるぅー」
照りつける太陽、そして青空の下、中年男性の歌声が響いていた。
バルエイス共同保護区第7地上生産所では、巨大未確認生物の死体処理作業に皆忙しくしていた。
鮮やかな緑に輝く芝生の上で寝返りを打つ、同じ空の下に怪物の死体が転がっている。手足をもがれた今の姿はまるで、加工前の家畜によく似ていた。
「あんなでかいの、一体どうするんですかね」
仰向けになって頭のすぐ傍に立っているウサミに質問してみる。彼の長い耳が逆光で黒く輝いていた。
「そりゃあもう、色々なことに使うのさ。腐臭を放つ前に肉を解体、冷凍保存し魔力を抽出。地下世界のエネルギーに使う。骨は砕いて何らかの加工を処理をして、何らかの加工を施し、色々あって主に石型燃料等々に使われる。ポットのお湯を沸かしたり、町の人工灯とかね。あとは」
「あー、もういいです聞きたくないです」
今これ以上真面目に聞いたら、マジで吐いてしまいそうだ。
「うう、それにしても気持ち悪い」
作戦が無事とまではいかなくとも、なんとか終了してから、車酔いの余韻みたいな感覚が体にしつこく残っている。
ソルトによればしばらく休んでいれば治るそうなのだが、それにしても辛い。
「我々の仕事は無事終了した、今は思う存分悶絶したまえ。生きることはそれ自体がキモいの連続なのだからね」
まるでどっかの誰かみたいな台詞を言ってくる。
外で寝たいという奇妙な要求を受け入れてくれたのは感謝すべきなのだろうが、しかしどうして監視役がこのオッサン、もとい年を重ねたどうにもいけ好かない男性なのだろうか。
「しかし君も立派な犯罪者だね」
冷水を浴びたように心臓が冷たくなり、思わず彼の方を見る。
「今回は色々とルール違反をしたし、許されることではない」
ウサミは俺の方を見ることなく、怪物の死体を眺めていた。彼はもしかしたら、俺のやったことに感づいているのかもしれない。
「あとでいろんな人に怒られるから、今のうちに覚悟しなよ」
「うえーい」
だとしても今はどうでもよかった、いつかこの世界の誰かに俺のことを追及される日が来るかもしれない。その時にどのような言葉を返すことが出来るのか、それは未来の俺にしかわからない。
ウサミが暇そうにもう一度歌いだす。
「キラキラはぁーいきをーとめぇーるぅー」
「…あの」
「何だい?」
「その歌のキラキラって何ですか?星ですか?」
「いいや違うよ、確か…」
「あ、やっぱいいです教えなくて」
意味ならなんとなく分かっている。キラキラ、キラーキラー。
くだらないな。
遠くで人々が働く声が響いてくる。体を起こすとルルとソルトの姿が見えた、彼女たちは作戦が終わっても休む間もなく精力的に動き続けていた。
瞼を閉じる、怪物を倒してからスカーレットには会っていない。散々語り合ったくせに、不思議と寂しさはなかった。何となく、あまり信じたくないのだが、またいつか彼女に会う日が来る。そんな確信に近い予感があったからかもしれない。
彼女は今、生産所の運動場に体を落ち着かせいる。後で会いに行こう。
「おーいー!二人ともー!」
ムクラが俺達を呼んだ。瞼を開けると少しやつれて体がしぼんだ青年が、手をぶんぶんと振っていた。
「いつまでも休憩してないで、ちょっとは手伝ってよー!」
見た所では彼は元気そうだった。
「さてマイカ君」
ウサミが俺の方を見る。
「我々には休む暇は無い、そろそろ仕事を始めようではないか」
仕事をしてきた大人の手をこちらに伸ばす。
「わかってますよ」
俺はその手を掴む。
立ち上がると世界が広がった、怪物もよく見える。太陽の光に照らされた肉が、きらきらと輝いて美しく腐り始めていた。
とりあえず終わりです。長々とお付き合いしていただき、本当にありがとうございました。