結局選んだのは
やっと終わったわ
まるで愛の告白でもするかのように、俺は彼女の名前を叫んだ。
夢はもう終わっていた、彼女の姿は消えた。その代わり視界に映っているのは、息を荒くして圧し掛かっている怪物の姿だった。
「スカーレット!」
意識が戻ると同時に呼吸が思い出されて苦痛も戻ってきた。だがもう一度声を振り絞って彼女の名を呼ぶ。返事は返ってこないとわかっているのに。
だって彼女は人間ではなく兵器なのだから。
突然叫ばれた聞きなれぬ単語、一番に反応したのは意外にもムクラであった。そういえば俺が考えたこの名前に、一番良い反応を返してくれたのも彼だった。おまけに合いの手まで考えてくれて、どんなのだっけ?スカーレット、
「ふ!ファイヤー!」
女性陣にはあまり受けなかった掛け声を、俺とムクラは実際に使った。ウサミの言ったとおりだ、テンションだけでも上げていかないと、戦いなんてやってられない。
「ムクラ!」
いよいよ怪物の重みで腹が潰れる、その前に情報処理員に頼みごとをしなくてはならない。
「弾を撃ってくれ!全部の特大のを!」
彼に頼むのは不安があった、だがどうしても彼にしかできないことでもあった。信じるしかない。
彼は俺の言葉少ない要求をすぐさま理解してくれた。そしてほんの短い時間、歯を食い縛って躊躇った。スカーレットが言っていた呪い、あるいは祝福が作動しかけている。
それは駄目だ、今は彼に背負わせてはならない。背負うのは俺の役目だ、救いようのない罪にまみれた俺に許された数少ない救いの一つなんだ。
大丈夫、そのような言葉をもはや呼吸もままならない喉で発した。青年に聞こえたかどうかはわからない、だが彼は決意を決めてくれた。
怪物の手が、腕が、そしてその先にあった首の皮膚が破裂した。実体のない攻撃方法に守られたムクラの一撃が、怪物の肉を抉ったのだ。
焼けただれた傷跡から体液は流れない。そのお陰で喉の奥にある血管によく似た管を見つけることが出来た。
怪物があの耳障りな悲鳴をあげようとする。だがそれより先に俺は体を起こして、怪物に飛びかかった。
勢いのままに怪物の巨体を押し倒し、地面に叩き付ける。
そして口を開けて、喉の奥の血管に喰らいついた。新鮮な肉の温かさと柔らかさに包まれながら、どくどくと脈打つ管を力任せに噛み千切る。
鉄の味が口いっぱいに広がった、あまり美味しくなかった。
「なるほどね」
耳の奥でスカーレットの声が聞こえる。
「食い殺しなんて、なかなか洒落てるじゃない」
怪物はしばらく痙攣していたが、やがて動かなくなった。
結構長い時間が経った。瞼を閉じて感覚を研ぎ澄ます、ちゃんと四人分血液の流れが感じ取れた。
とりあえず安心して口を怪物から離す、空を見上げると夜明けが近かった。
怪物の造形には結構悩みました。