名前を呼んで
やっと名前を呼んでもらったわ
理由なんてわからないよ。
結局その後体の震えが止まらなくなって、いてもたってもいられなくなって、家を飛び出した。
暗い道を前も見ずにただひたすら走って走って、たぶんいつの間にか大通りに出たんだと思う。そのまま車道に飛び出て、そしてトラックに轢かれた。
そこで俺は死んだはずだったのに、目が覚めたらこの世界にいたんだ。
「なるほど、そうだったんだね。とてもとてもつまらないお話をしてくれてありがとう」
どういたしまして。
「さあて、無駄話もこれにて終幕だ。何かまだ語り足りない気もするけれど、きっと気のせいだ。これ以上は面倒臭いから、とりあえずこれでお終いにしよう」
待て。
「ん?何かな?」
まだ君の話を聞いていない、俺にだけ話させておいて自分は何も教えないなんてずるいぞ。
「あー、うん、確かに、それもそうだね」
結局君は、貴女は誰なんだ?
「そのことなんだけど、実は私もよくわからないんだ、ごめんなさい」
何だよそれ。
「ただ一つ確実なことを言えるのは、私は君のすぐ傍にいるよ。ずっと君を見続けてきた」
意味がわからないよ。
「意味なんて後から考えればいいじゃないの。それよりも今は理由を求めましょう」
理由。
「そう、あの時君が出来なかった、自分のためじゃなくてほかの誰かのために理由を求めること」
誰かのために、か。
「貴方は優しい人、他人のためにkillerkillerになれてしまう人、悲しい人」
キラーキラー、キラキラになる。それがこの世界の人に出来ないことなのか。
「悲しいわよね、ここに生きる人たちは殺すことに理由を見出すことが出来ないのだから。だから貴方のような他人に頼るしかない。かつて生き残るために生み出した祝福が、いつしか呪いへと変貌してしまった。同法を守るためのプログラミングに自分の首を絞められるなんて、哀れとしか言いようがない」
だから人間を必要とした。
「同胞を殺すことのできる破壊性を有し、しかし他人への敬愛を捨てることが出来ず、生きる希望を持ったまま地球での生命活動が困難になった惨めで憐れな魂」
それがこの世界にとっての転生者。
「ぴんぽーん、正解よくできました。さあわかったなら君の、君がやると決意した役割を果たさなきゃ。私も君と一緒に頑張ろう、これ以上お腹を圧迫され続けたら、さすがにヤバいし」
うん…、うん頑張るよ、そうしなきゃこんな俺を手伝ってくれると決意してくれた人達を助けられない。あの人たちが死ぬのは嫌だ。
「ようし、それじゃあ」
あ!でも待って。
「ええ?、何なの?これ以上私から言うことなんて無いよ!」
お願い、これで最後だから。
あの、君の名前だけでも教えてくれないかな。
「この状況で名前」
だって知っておかないと、貴方とはまだ長く付き合いそうだし。
「ふーん、嬉しいこと言ってくれるわね。でも残念ながら私に名前は無いのよ」
そうなんだ。じゃあさ、さっきムクラと決めたやつで良いかな。
「え、あれ?あれはちょっとダサいかな…」
ダサいとは失礼な、そんな文句言うならそれに決めてやる、はい決まり。
「決められちゃったあんなダサい名前に、まあいいか。でもせっかくならさ」
ん、何?
「私の名前を呼ぶならさ、そんな曖昧な言葉は嫌だな。もっとカッコつけて言って」
わかったよ。
「これでいい?」
「うんよろしい、満点」
「よし、せーの」
「スカーレット!」
俺はみんなで決めた彼女の名前を叫んだ。
個人的にはカッコいいと思っています。