わからない
わからないでは済まない
ああ、ああああ、そうだった。俺は母さんを殺したんだった。ついでにお父さんも殺したんだっけ。
ほんの少しの切っ掛けで、次々と記憶が正確に蘇ってくる。お父さんの方は確か包丁で刺した、人間の肉が以外にも硬くて大変だったのを憶えている。
「どうして殺したの」
それは、ついカッとなって。
「そんなアバウトでありきたりな理由は求めていない。もっと臨場感たっぷりで正確な情報を寄越せ」
そんなこと言われてもな…えっと…。
そうだなあ、やっぱり家庭用包丁で太り気味の成人男性を、一撃で殺すのはさすがに無理だった。
だからお父さんの背中に何度も連続で刺すことになった、腕がすごく疲れたよ。結局首の辺りを思いっきり切ることにしたんだ。それでようやく倒れてくれた。
「あー多分頸動脈を切ったんだね、そこをやられたらどんな立派な大の男でも、ひとたまりもない。
それで?」
それで?
「どうして君は両親を殺すことにしたんだ?理由を教えてくれよ」
俺が殺した理由は。
最近家にやってきた見知らぬお父さんがマイカ君を殴りました、お母さんは何も言いませんでした。いいえこれは昔のことで関係ありません。
マイカ君は学校に行きたくなくて部屋に閉じこもりました。いいえこれも関係ありません。
マイカ君が閉じこもってからずいぶん経ったある日、お父さんがお母さんを殺していました。お母さんのおっぱいの下辺りに、漫画の中でしか見たことのない大きい刃物が刺さっていました。
マイカ君はお母さんを見殺しにしていました。
刃物はお墓のようにお腹に突き刺さっていました。
お母さんが悲鳴をあげていたのに無視をしました。
今思えばそれはサバイバルナイフというものだったかもしれません。
まるであの日お父さんから自分を助けてくれなかったみたいに。
どうしてマイカ君は部屋から出てきたのでしょう?自分が殺されるのが怖かったから?理由は何でも良いのかもしれません。
だって部屋の扉を開けなければ、お母さんをじっと見つめて動かないお父さんの背中に忍び寄って、たまたま机の上にあった包丁で背中を刺すこともできなかったのですから。
「どうして殺したのさ」
わかりません。
「自分を大事にしてくれなかった人を、許せなかったから?」
わかりません。
「自分の人生に絶望していたから」
わかりません。
「…」
…。
………
……………。
わからないよ。
何時も理解が遅れます。