突然の気まぐれと及ぼされる悪意
商業都市アラジステムで繰り広げられる日常的な非難される行為。
縦横無尽に建築された建物の森。その間を川のように流れる硬い道。そこからか細く分かれた小道の片隅で、肥った男が走っていた。よく目を凝らしてみると、男は複数の人物に追われているように見える。彼は重そうな体を転がし、袋小路へと向かっているのが上から見て取れた。
「ソルト」
「はい?」
「ちょっと止めて」
新しい世界に訪れた反動が遅れてきたのか、俺は俺らしからぬ行動を起こそうとしていた。
「おうおうテメエよお、何偉そうにデブっちゃってんだあ?」
「デカい図体晒しやがって何様なんだよムカつくんだよ」
まさしく劇画の一幕がそこで繰り広げられていた。
「ひ、ひいい。勘弁してくださいい」
肥った男が、複数の清潔感に欠けた男たちに向けて、教科書通りの台詞を絞り出した。あえて場面を説明すると、肥満が野郎にカツアゲされそうになっている。
「あ、あわわ。なんかやばそうなことになってる・・・」
俺は隣にいるソルトにぎりぎり聞こえるほどの小声で固唾を飲んだ。特に大した理由はない、と言えば嘘になる。少なくとも多少の好奇心があったことを指摘し、非難されることは別にいとわないが、ここまでいかにもオーソドックスな場面に遭遇するとは、夢にも思わなかった。
「オイ兄ちゃん、金持ってんだろ?寄越せよ」
「カネくれよ」
需要も供給も減ったくれもない会話に肥満はもちろんのこと、なぜか部外者である俺の体も情けないくらいに縮み上がった。覗き見している時点で部外者を名乗りたがる、俺の小心っぷりと同じくらい目の前で繰り広げられる場面は作り物めいていた。それ故に今までのことはすべて三文芝居だと思いたかったが。
「ひゃああ。だします、いくらでもだしますから。有り金全部渡しますからあああ」
肥満の言葉と狼狽には嘘も脚色も何一つなく、ハリボテ感をすべてぶち壊していた。
「なあソルト、これはやばいぞ」
野郎が肥満に手を出す前に、そして肥満が財布に手を出す前に、なんとかしなくては。はたしてこの世界には警察があるのか?などと頭の中で御託を並べていると、野郎どもが動き出した。こぶしを握り締めている。その姿を俺ははっきりと見た。
「転生者様」
ソルトに呼ばれ、意識がもどされる。目に映る世界ではまだ何も起こっていない。だがもうすぐ、今すぐにも許されないことが起ころうとしている。
「私に命令してください」
ソルトは俺の目をまっすぐ見ていた、まるで俺の望むことをすべて知っているかのような目だ。
俺は口を動かした。
サブタイトルが迷走してしまいました。