お仕置きはまた後で
今はそれどころじゃなかった
「心配しましたよーっ!」
「ごふう」
ソルトの渾身の[心配しましたよタックル]を、避けることもせずに潔く受け入れる。腹に伝わる重量と痛みが、安心感を実体のあるものにしてくれる。
何があったのか大まかに説明すると、ムクラが廃墟に辿り着いて俺達を発見した後、ややあってそのほかの急遽立ち上げられた即席捜索隊の皆様にも無事に見つけてもらい、俺とルドルフは奇跡でも何でもない帰還を果たすことが出来たのであった。
もちろん、ちゃんと服を着て。
戻ってきてすぐに、それはもうとんでもなく色々な人にお叱りを受けた、主にあの声の低い所長さん等に。当然の罰とはいえ、いまだに大人の男に怒られると血の気が引いてしまう。だが転生者という立場が含まれていようとも、自信を心配してくれて怒られるのは意外と悪いものでもない。話の端々で逃げた山羊の全頭無事も確認できた。
小一時間の拘束も覚悟の上で是としていたのだが、何故か数十分ほど所長室で怒られてすぐに解放された。戻ってきた時から何か緊迫した空気が生産所内に張りつめていたし、所長さんも瞳に焦りを浮かべていた。
何か起きたのだろうか?ルドルフもそれを感じ取っていたらしく、最初は神妙に叱責を聞いていたが、次第に所長さんからにじみ出る焦りの方に気を取られているようだった。
最終的に俺はしばしの休養を名目に、さっさと解放されてしまった。部屋から失礼する際に、所長さんとルドルフが深刻そうに睨み合っているのを横目で見た。
この後どうしようと考えていたところ、部屋の外で待機していた作業員らしき女性と目があった。彼女は俺を部屋へと案内してくれようとしたが、出来るだけ丁重に断った。どうにも落ち着ける気分ではなかったからだ。
そのかわりに、妖獣が待機している場所まで案内してもらうことにした。理由は特にないのだが、どうしても会いたくなったのだ。
周囲が慌ただしくしているにもかかわらず、女性作業員は親切に俺を兵器の元へ連れて行ってくれた。お礼を言い終わりいざ兵器を見ようとしたところ、ルドルフ以外の隊員達と再会したのであった。
ソルトとウサミ、結局俺とルドルフに支えられる形で帰ったムクラ。どうやら彼らは兵器の元で待機していたらしい。雨はもう霧のような小降りになっていた。
俺の姿を見て、ウサミは相変わらず何か面白くてたまらない事でもあったかの様な、笑みをほんの少し浮かべていた。
そのまま俺に状況を報告してくる。
そろそろかもしれないですね。