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あなたにしか出来ないこと

自分にしかできないわけでも無い

「どうしてなんだろう」

 ずっと気になっていたことがある、答えは特に求めていなかったから気にしてこなかったけれど。今更気になって仕方なくなる、無駄に開放感があるからいらないことまで気になってしまうのかもしれない。 外は未だに雨が降っていたが、雨音はまばらになってきた。もうすぐ晴れるだろう、服は乾いただろうか、早いところ生産所に戻らなくては。山羊のことは精一杯謝るしかない。

 でもその前にルドルフに、隊長である彼女に聞いておきたいことがあった。

「ねえねえルドルフさん」

「なに?」

「どうして俺が必要なのかな」

 なぜ怪物と、あの巨大で強大そうなおぞましい造形の生物と戦うのに俺が、転生者の存在が必要なのか。この世界に生きる彼等なら別に、人間一人に頼らなくともいいはずなのではないか?

「無イと戦うのに転生者ってどうしても必要なのか?」

「所長から説明されなかった?妖獣を動かすには我々が持つ魔力だけでは足りないと」

 ルドルフはそのことがまるで自身の過失だとでも言うように、言葉に痛恨を込めている。

「無イの頑強な皮膚と肉と骨を砕くには、妖獣に秘められた強靭な爪と牙が必要なんだ。だが今の我々の技術力では運用に適していない。ウサミさんのようなベテランの方ならば、動力を使って操縦のみを行うこともできる。しかし戦闘となるとどうしても別の問題があるんだ、そのために君が必要になる」

 彼女はあくまでも真剣だった、だからこそより追求したくなる。

「でも俺には魔力があまりない、転生者はたくさんの魔力を持っていないといけないはずで、だから妖獣に必要とされるはずなんだろ」

 ルドルフは黙った。

「この作戦に、怪物を地下世界から消すのに、俺は本当に要るのか?」

「この世界に貴方が来た時に言われたであろうことと同じように、私たちには転生者が必要なんだ。そこにごまかしも嘘もないよ」

「魔力も、体力や気力すらまともに備えてなさそうな餓鬼であってもか?」

 ルドルフは再び黙る。俺のなよなよとした態度に苛ついたかと思ったが、しかし場の空気に刺々しさは感じられない。むしろこの次に何を言えば良いのか、慎重に黙考しているように思える。

 少女は口を開いた、湿り気のある空気が吐かれ喉から音が作られる。

「あたしたちが生きる世界には、人間が必要なんだ」

 女の子だけの大事な秘密を打ち明けるような密やかさで、しかししっかりとした発音でルドルフは俺に教えてくれる。

「あたしたちには、あたしたちだけでは無イを、あの大きな怪物を倒すことは出来ても、殺すことは出来ないんだ。それは転生者、つまり人間だけが出来ること。人間だけが殺せる」

自分にできることは、大体他の誰かにもできたりします。

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