バルエイス観光ガイドブック
商業都市アラジステム。初めて見る都会の喧騒でマイカは目を回す。
ソルトの主張、そして微笑みの理由は割とすぐに体感し理解することができた。門を超え道の果てにたどり着いたのは、新たに広がる道の世界であり、俺の小さな世界をさらに揺さぶる光景だった。
そこは白く霞む夜の国、無増に連なる塔の群れだった。上に下に、右に左に所狭しと種々さまざまな建築物が詰め込まれている。建物が己の存在を主張するかのように突き出す看板は、赤を中心に色とりどりに着色され、繁華街によくあるネオンに似た光を放っていた。
街には言葉があふれている。見たことのない、だがどこか懐かしい文字たちは看板と建物、そして空中に浮かび漂い、カゲロウのように群がっていた。
先ほどまでの静かな明るい住宅街とは異なる、だが同じく地下に存在する暗い街は、ここが土の下であることを遠くの彼方へと忘れ去ってしまいそうになるほどの広大さがあった。
というか広すぎる。俺の地元で一番発展していそうな所より広いんじゃないか?
地面があり空がある、俺の知る世界よりはるかに文明の進んでいそうな町は、重力を忘れてしまいそうになるほどだだっ広い。だが上空にあるのは青空でも曇り空でもましてや夜空でもない、ただの硬い金属の天井だった。体育館の天井に似ているそれは十分すぎる高さを持ち、所々に備え付けられた照明によって天井としての役割を果たしている。だがその無機質さと人工味が、下に広がる街の声を無差別に圧迫している、そんなイメージを勝手に抱いた。
「ここは商業都市アラジステム。固定建造物と浮遊建造物が寄り集まって形成されている都市です。ここはバルエイスの顔とも評されるところで、様々な観光名所があります。ほら、見てください。あちらにランドマークのからくり時計がありますよ。あれは定時になると鐘が鳴ってヤギの頭が・・・」
ソルトのガイドブックをそのまま暗記したような案内を耳に流し、俺は景色に見とれていた。
ふと、ある場面が目に入った。
バルエイスはたくさんの地下空間があり、アラジステムはその中でも特に広いところ、いわゆる中心街的な認識で観光名所となっています。ほかの空間から来た人のために、最新の店舗情報が記載されているガイドブックも刊行されています。