虹色の壁
目が覚めました
目が開いたら、そこには全裸の少年と少女がいましたとさ。おしまいおしまいめでたしめでたし。
「終わらない終わらないよ、まだ何にも終わってないよ」
寝ぼけた頭は痛みによって強引に現実へ帰来され、開け放しにされていたらしい口の中身はぱっさぱさに乾燥していた。干からびてぴりぴりと硬直している舌を、もごもごとうごめかせる。
「あ、起きた」
ぼやけていた視界をまばたきを繰り返して安定さていると、上から少女の声が降ってきた。ほぼ呻きに近い深呼吸をして、筋肉を伸ばそうとすると周囲の環境がよく認識できてしまう。何と俺の頭は、少女の尊き太ももの上に安置されていたのである。初膝枕、また初めてを経験してしまった。
「ごめんなさい、すみませんでした、申し訳ありません。もう一度失神します」
「やめんかい」
ルドルフが呆れたようにデコピンを一つはじいた、痛い。
「頭を打った、と思うから、念のためにしばらく横になってなさい」
そんな!そんな優しさに甘えさせてもらえる資格なんて、俺が持っているわけがない。何より異性の肌に密着する行為に、これ以上耐えられない、耐えられる訳がない。
彼女の勧を無視して頭をあげようとした、だが力を入れると同時に発砲音のような痛みが頭部に走った。鐘の音みたいに繰り返す頭痛に、耐え切れず脱力して再び柔らかい太ももに頭を沈めてしまった。
「少量だけど出血もあった、無理をしたらダメだよ」
壊れやすいガラス細工、あるいは発掘された不発弾に触れるかのような慎重さで、ルドルフが頭を撫でてきた。しっとりと温かい、柔らかな指先がそっと髪の毛と皮膚の上を滑る。
仕方ないので寝返りを打つ要領で、視線を天井から横へと移す。当然のことながら、少女の肉体がある方向へは絶対に顔を向けない。
視界を転換させる、すると
「うわあ…、何これ?」
ぼろぼろの廃墟の壁に、いくつもの色鮮やかな光の花が咲いていたのだ。いつか雨上がりの時に見た虹、それを細かく砕いて散りばめたかのように、光の粒が明滅を繰り返している。その光は埃と瓦礫まみれの床に置いてある、二つの小さな発光する小石から生まれていた。
ほんの大豆ほどの大きさしかない石から発せられる燭光が、不可思議な屈折を繰り返して色を得ている。まるで万華鏡の中にいるような幻想的な風景に、しばらく何も考えずただ正直に見惚れていた。
「すごい…!すごく綺麗!」
「そ、そうかな?」
ルドルフが恥ずかしそうな声を出した。急に率直な感想を言われて意外だったのだろう。
「ただの失敗作なのに」
理科は得意ではなかったので、あまり細かい所は気にしないでください。今更ですけど。