空虚なやり取り
不毛!
「ルドルフ隊長殿」
「何だ」
「服を脱がないか?」
どうしてすぐに思い至らなかったのだろう、会話をする前にまずやらねばならないことがあったのに。
「もっと早く気付くべきだったよ、濡れたままの服を着ていたら風邪をひいちゃう」
俺とルドルフは、台風レポーターのようにずぶ濡れになっていた。せっかく生産所の方々に貸していただいた服も、洗濯したてみたいにべとべとである。
ルドルフの方はさらに悲惨で、男性用の制服に計上がよく似ている服装が、どっしりと雨粒を吸い込んでいていかにも重たそうだ。
「とりあえず上だけでも脱いで、どこか適当な所に干すか…。廃墟の中に毛布とかあればいいんだけど、ってあれ?」
有効に使えそうな物品を視線で探っていると、うつむいたまま動かないルドルフの姿が瞳に映った。
「隊長どうした?お腹痛いのか?」
よく見ると細い方がふるふると震えていた。
「気分が悪いなら、早いとこ服を脱いで温まらないと」
なぜか胸元で拳を握っている若者に近寄る。よく見るとやたらとボタンが多い服で、一体どうやって着脱衣しているのかよく解らない構造の衣服だった。
「その服脱ぎにくそうだし、脱ぐの手伝ぶっ!」
早速手助けをしようと手を伸ばしたら、突如として右の頬をばつん!とはたかれた。
「痛い!?」
「ああ!ごめんなさい!」
赤みを帯びた顔のルドルフは、右手の指を素敵にぴんと伸ばしていた。
いきなり何を!と思ったが赤くなっている彼の顔を見て、怒りよりも緊切の方が勝る。
「ああ…、熱に脳がやられて暴力的に」
「違う違う、あ、僕は平気だから」
自分の動揺そのものに慌てているのか、ルドルフは左目をくるくると回していた。
「平気なわけないだろうよ!」
痛みが遅れてやってきた頬をさすりながら俺も狼狽える。
「普通に健康な人は、いきなり人を殴ったりしません!」
「殴ったんじゃない、ビンタだよ」
ルドルフは目を泳がせて言い訳をする。
「どっちでもいいだろ…。服を脱ぐのがそんなに嫌なら、俺が先に脱ぐよ。服べたべたで気持ち悪いし」
ジャンパーのチャックを下げ、地面に頬り投げると中のインナーを。
「うあーっ待って!」
ルドルフが激しい剣幕で俺の肩を鷲掴みにしてきた。
「えええ?何?」
「わかった服を脱ぐよ!僕が先に脱ぐから貴方は休んでて!」
意向が変更しすぎてついてけない。
「何だよもう…、手伝わなくてもいいんだな?」
「それも大丈夫だ、貴方の手を煩わせる必要はない」
一体何をそんなに必死になるのか、どうにも不思議だった。
「じゃあ僕は、奥に行くから」
ルドルフは目を伏せたまま廃屋の奥へ歩く。
「ヤエヤママイカ」
「はい何ですか」
「絶対に、絶対に!仲を覗くなよ」
こぼれた髪の毛の隙間から鋭い眼光が向けられる。
「見ませんよそんな、野郎の着替えシーンなんて」
ため息交じりに笑ってみると、若者も力のない笑みを返してきた。
不毛不毛。