綺麗な嘘はいらない
口下手
あんなのは何の役にも立たない生き物だ。
「それと動物たちを同列に並べるなんて、失礼が過ぎると思いませんか」
言いたいことが言えてすっきり。したのは良いがこんなことをルドルフに言ってどうする。
「…」
ああほら、いきなり妙ちきりんなことをぬかし始めた奴に白けた視線が。
「ふふ」
だがどういうことなのか、若き隊長殿は今まで見せたことのない穏やかな微笑みを浮かべた。
「貴様は」
左目の瞳孔を不安定に揺らし、呆れたように言葉を発する。
「貴方もあの生き物が嫌いなんだな、安心したよ」
「へ?」
予想だにしていなかった考察に、構えていた思考がだらりと緩む。
「憎悪しているというべきか、そうだろ?」
「憎悪、ですか」
憎んでいる、確かにその言葉も十分俺の心理に当てはまっているのかもしれない。だがどうにも冷たい違和感がある。
「憎んでいるとか、そんなんじゃないと思います」
自分自身の考えが上手くまとまらない、そういえば俺はあの怪物のことをどう思っていたんだ?
「隊長さんみたいにはっきりとそう言えるほど、俺はまだあの怪物のこともこの世界のことも、何も知らない訳ですし」
「ならば今ここで問い質しておこう」
日が落ちて暗くなってきた、なので彼の顔色をしっかりと認識できない、だが多分青ざめていたと思う。固定されて動かない右目がじっと俺を睨んでくる。
「貴方はどうしてあの時無イを、未確認生命体をためらいなく攻撃できたのか」
ルドルフはうつむく、作られた影の奥で頬の肉が歪んだ。
「普通あの生き物に、ああまで無残な攻撃を加えることは不可能なはずだ」
「え、何が」
一瞬何のことを言っているのかわからなかった。ルドルフはさらに重ねて質問してくる。
「貴方は、いや貴様はあれを、その、殺そうと、したんだろ」
若者はゆっくりと、呼吸を重ねながら慎重に口を動かしていた。さすがにもう気付く、ルドルフは気分が悪そうだった。
「隊長さん大丈夫ですか?なんだか苦しそう」
「触るな」
肩でも貸そうと思ったのだが拒否されてしまった。
「…正直なことを言えばあの時、時計塔で暴れたときは特に何も考えていませんでしたよ」
左胸を押さえている隊長殿に何をしたらよいのかわからず、とにかくまずは質問に答えることにした。
「言い訳をさせてもらうならば、俺としては人を助けるつもりで行動したと主張します」
そうだ、そうなのだ。なんやかんやで俺は隊員と、そして時計塔の下の野郎を結果的には助けた。
…だから?。
「俺はここの人たちの役に立ちたかったんです」
違う。
「違うわ、嘘をつかないで」
「え?」今誰かが
「それは違うだろ」
ルドルフが俺の方に体を不快なほど近づけてきた。
「美しくいい加減なでまかせは言わなくていい、本当のことを言え」
「本当のこと」
そうだ、そうでした。まあ確かに、人を助けたい気持ちもあることにはあった。だけどそれ以上に、
「貴様はあの時、死に至らしめるほどの攻撃を楽しんでいた」
そうなのだ、俺はとても楽しんでいた。その言葉の方がより正解に近い。
ガム美味しい。