コミュニケーション能力の重要性は何時までも何処までも
お話大事
「今開かせられる情報はそれだけだ」
特に有益なことは無かったな。耳が長い中年男性は紙コップを握り締めて潰す。
「あとは特になし、とりあえず僕たちはここで待機しとけば良いのさ」
俺とウサミは地上生産所の建物の一つ、そこの屋上にいたのだった。夕闇が昼間の熱を溶かし、生温かく湿った空気が頬を撫でる。
「そうですか」
目を閉じて納得をしておく。細かい事情は相も変わらずしっかりと理解できないが、それでも事の重大さは流石にどことなく察知できる。要するにあれだ、どこかの偉い人の許可もなしに勝手をやりすぎたのだ。というわけでルドルフとソルト辺りが御叱りを受け、その間その他の隊員たちは施設を出ないという約束の元、しばしの休息という名目の拘束を受けているのである。
隊長さんと癒術士はここの土地の偉い人、つまり第7地上生産所の所長さんと、かれこれ1時間は話し込んでいる。
あ、そういえば。
「ムクラはどこに行ったんですかね?」
若き情報処理員は地上に到達してからというものの、すっかり興奮しまくっていた。しきりに「すげえ」だとか「やべえ」などと呟き、「見学します!させてください!」と言ったっきりいつの間にか何処かへ姿を消していた。
「ああ、彼ね」ウサミは遠くを見つめたまま記憶を探る。
「屋上に来る途中で、作業員の方々と和やかに談笑しているのを見かけたよ」
「マジっすか、元気だなあ」
よくもまあ初対面の人に話しかけられるものだ、俺には到底出来そうにない。
「ホントに、羨ましい限りだ」
ウサミは視線を落として目尻に皺を刻んだ。
「ヤエヤマ君も、見学でも観光でもすればいいじゃないか。せっかく地上に来たんだからいろいろ見どころはあるだろうに」
「そう言われましても、俺は別段地上に特別な感想は抱けませんよ。元々上に住んでいましたし」
「それもそうかもしれない、だけど若者はいろんなことに興味を抱かなくては」
彼らしくない年配者としての台詞を吐くと、名残も見せずにさっさと移動をしようとした。
「若者がみんなそこまで元気100パーセントに生きられる訳でも無いですけどね」
残りの茶を飲み干すと苦みが骨に染みて、体が青竹色に変色していく気がした。
「しかしここで何時までも寝ているのも寂しいですし、ここはやる気を出させていただきます」
立ち上がると、ウサミの細く柔らかそうな白い毛に包まれた耳が目線の近くに移った。それを尻目に屋上の出口まで進む。
「そう来なくちゃ、もっと」
彼の言葉は風の音に遮られ、最後まで聞くことが出来なかった。
もうすぐ日が沈む、空は橙に輝いていた。その色彩が隠していた荒みを穏やかに塗りつぶしてくれないか、そう願いながら扉に入る。
階下に続く階段は暗く、落ちるように降るとスリッパがひたひたと音を立てた。
なぜか寒気を覚えたので、上着の中で体を縮ませる。兵器から出たまま全裸で生産所内を歩き回り、屋上で寝転ぶ。なんてことはさすがに色々な人が、主にルドルフとソルト辺りが、断固として許さなかった。なので兵器から排出される前に、配給管を経由して有難く服を支給してもらったのだ。液体の中で着替えるのは少し大変ではあったが、それでも一糸まとわぬ姿を天に晒すよりはましではあった。
それにしても。
「ジャンパーにジーンズね」
降りのリズムに乗って自身のファッションチェックを試みる。改めて見ても、なんとも普通な服でとても着心地が良い。それとなく聞いたところによれば作業員の方の服を拝借したらしい。見学する気は毛頭なくとも、服を貸してくれた人にお礼だけでも言わなくては。
外では人の声が響く。それを耳に流しながらそれとなくぼんやり廊下を歩いていると、いつの間にかある扉の前まで辿り着いた。
私は会話がド下手です。