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幕間 過ぎる言葉に訂正を

過剰表現

「やあやあやあ、君よ。相も変わらず飽きもせず、性懲りもなく唐突に登場する、お久しぶりです私ですよ」

 挨拶がだいぶ迷走してきたね、母さん。

「君の方こそ如何したんだい、前回のお話なんか構わず、のんびり夢でも見てるのかい?」

 うーん、そうかもね、色々あって疲れたのかな。でもおかしいな、眠った記憶が全くないや。

「おやおや?それはもしかしてもしかすると、白昼夢ってやつかな?」

 白昼夢、そうか白昼夢か、そう言われればそうかもしれないな。すごいや、俺白昼夢なんて初めて見たよ。

「すごいすごい、白昼夢記念だ。イエイ」

 イエイ。

「なんて、感動に値するほどの事でもないけどね。君は本当に地球人として、人間としての生の貴重な十数年を無駄に過ごしてきたようだ。白昼夢どころか碌な経験も積めなかったと見れる、嗚呼可哀想に」

 なんとびっくり、母さんに憐れんでもらえるなんて思いもよらない出来事だ。なんだか嬉しくて頭が痛くなってきたよ。

「君の言う通りだ、悲嘆もすぎると身体に害を及ぼしてくる。まったくもって呆れちゃうほど不快だ、一体どれほど価値の低い人生を送ったら、そのような塵芥の如き思考を獲得できるのかしら」

 価値かあ、そうだなあ…。大体1円玉1枚位じゃない?そんなもんだよ、俺の人生。

「おいおいおい君よ、言いたいことは何となく珍しく解りやすく伝わったし理解できる。だが理解した上で、私は君の言葉を否定したい。間違っている、君の人生の価値は1円ではない」

 そうだよね母さん、幾らなんでも1円は自虐が過ぎるかな。

「あ、ごめんそうじゃなくて、高すぎるって言いたいの」

 ああ、なんだそうか。でも1円より低い値段なんて、俺の生きていた時代には使われていなかったよ。1より下は0円しかない、無だよ。0円の人生なんて、それはそれで希少価値がありすぎる。俺の人生はそこまで珍しくなかったはずだ。

「まあまあそういきり立つな、唾液が飛び散って汚いよ。そうだね、言葉が足らなかった、謝ります、ごめんなさい」

 謝るなら許すよ。

「有難う、君の心が広くて良かった。感謝感激雨霰だ、お礼に良い事を教えてあげようか」

 お礼なんていらないよ母さん。

「1円玉という物体について語ろうじゃないか…」

 やっぱり無視なんだね母さん。

「1円硬貨の素材がアルミニウムなのは知っているよね?知らない?じゃあ今知ったってことで。アルミニウムは今でこそ馴染み深い金属だが、かつての地球では皇帝の食器に使用されていたのだよ」

 皇帝のことは知らないけど、アルミの食器は面白いね。

「物の価値なんて、いつどう変化してもおかしくないからね。とにかく君が主張する1円硬貨には、アルミニウムが使用されている。約0.7円、材料費だけでもそれだけかかる」

 それじゃあ実際に使う硬貨にするためには、もっとお金がかかるね。

「話が早くて助かるよ、さすが君だ。1.6、或いは2円、それぐらいの費用が1円硬貨には必要になる」

 なんてこった、そんなに高い物、俺の人生には不釣り合いが過ぎるよ。

 …。

 それで?

「ん?」

 その話から俺は何の意味を、どんな価値を見出せばいいんだ?

「何の意味もないし、価値もないよ。たださ、私の世界に君のいた場所でいう所のアルミはあったのかなって、ちょっと気になっただけ」

 何言ってんだよ母さん、母さんは地球で、俺と同じ時代に生きていただろ。アルミなんて何処にでもあったじゃないか。

「ああ…そうだね…そういう」

 あれ、母さん?声がなんだか遠いよ、どうしたの?

 あれ、あれ、口から水が、苦い水があふれてくる。水じゃないこれはお茶だ。

 意識を取り戻さないと、このままだと溺れる。


諸説あります。

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