季節では何が好き?
ウェルカム地上生産所
登れ登れ登る登る登る登れば登るる登られ登りたい登らなく登らず登らなくては登らなかったら。
どれくらい登っただろう?いいかげん疲れてきた。
「そろそろ空気が変わってきたね」
誰かが言う。
「ほら、扉が見えてきたよ。これがここの住人にとっての、最後の関門ってやつか。記憶にあるものよりしょぼいな、こんなだったっけ?」
知らないよ。
「だって見てみてよこれ、すんごくダサくない?なにこれアルミ製?」
それは無いでしょうよ。というより、俺は
「マイカさん!」
「え」
どうやら集中のあまり意識を飛ばしていたらしい、ソルトの声で自覚を取り戻すと同時に、ごつん!と頭部に強い衝撃が走った。何か硬い物にぶつかった、脳が揺れて頭蓋骨がびりびりと痛い。
「痛あ?」
「大丈夫か?」
別の声、ルドルフが心配そうにした。
「しっかりしろ、ちゃんと前、じゃなくて上を見ろ。最終ゲートだ」
隊長は呆れ気味で叱責してくる。
瞬きを繰り返して時間の流れを確認する。ものすごくぼんやり、もとい集中していたので気付かなかったが、すでに最後の門へ登り付いていた。外の空気が僅かに香ってくる。
その香りに気を取られていると、忘れていた体の重みと蓄積していた疲れが帰来してきて、危うく落下しかけた。
「あわわわわ、落ちる…!」
慌てて手に力を込める、爪が音を立てて壁に傷が伸びる。
「ひえー危ない危ない」
ムクラが感嘆をこぼす。
「ものすごく集中していたから、声もかけられなかったよ」
「えーと、ここは?」
鼻腔は土のにおいを扉の向こうへ感じ取っている。
「ここが正真正銘、地下からの出口だよ」
ウサミが解説した。
「一番上にある門。我がバルエイス共同保護区の最上層ゲート、区民の生活基盤を支える地上生産所、そこへ続いている」
「そこが楽園ですか」
前から思っていたのだが、この「楽園」という名称を考えた人は一体どういうセンスをしているのか。
「ちょっと違うかな」
「君が知っている楽園とはちょっと違う。地上生産所はただの地下保護区の継続、人の管理下にあるただの施設だ」
「それじゃあ、楽園って…」
「そこを説明するのはまた今度だヤエヤマ君、今はそれどころじゃない」
ウサミは俺の質問を遮って、ため息交じりに指示を出した。
「通路の下から続々と追手が迫っている、さっさと地上に出よう」
確かに下方からエンジン音、空気漏れのような走行音がたくさん響いてきている。
「地上に出ちゃえば地下の機関の管轄外に入れる、急ごう」
「そうですね、急ぎましょう」
何をされるのかは知らなくとも、捕まったら面倒臭そうだ。ということで、
「えーと、どうやって開けるんだ?」
頭上にある門は錆びつき、尚且つ重厚そうで一筋縄では、少なくとも足が塞がっている状態では開けるのは難しそうだ。
「大丈夫ですマイカさん」
ソルトが開け方をレクチャーしてきた。
「そのまま頭から突っ込んでください、それで開きます」
「ええっ?」
なぜかルドルフも驚いていた。ソルトは何事もないように言葉を続ける。
「最終ゲートは地下内のゲートより原始的な造りなっています、機体の重量があればこじ開けられるでしょう」
怪物と戦う前にダメージを追いそうなやり方だった。
でもやるしかないか。壁を登って頭を門に押し付けてみる、結構重たい。しかし急いでいると普段より力が出てくる、片腕を離して拳で扉を押し上げてみた。
何かが折れる派手な音の後に、重かった扉が少し動いた。不味い、なんか壊したかな。ふあんにおそわれたが、その感情はすぐに掻き消える。地下では見ることのなかった強烈な、熱のある光が差し込んできたのだ。太陽だ。
久しぶりの日の光で気分が高揚、したわけでも無いのだが、予想以上に腕に力が入った。一気に扉を押し上げる。
見えたのは
「青色」
青い空だった。散々見てきたはずのものなのに、ルドルフの大げさとも取れる驚愕の影響で、俺までつい感嘆してしまう。
勢いをつけて跳躍する、登り切ると体中が日光の熱さに包まれた。眩しさに目を瞑る。
目を開ければそこはとても見慣れた世界で、しかし冷たい未知に溢れ返っている場所でもあった。
上を向く、当たり前のことながらそこに天井はない。あるのはひたすらにだだっ広い空間のみ。晴れていた、視界で確認できる範囲全てに雲一つない晴天だ。
鼻が気温を細やかに感知する、温暖を遥かに超えた熱量が襲いかかってきた。皮膚に纏わりつく湿気が故郷の季節を思い出させる。
俺が地球で死んだ日と同じ季節、俺が一番嫌いな季節とよく似ていた。
台詞が多いですね。