ぷにぷにの手の平は素敵だな
ぷにぷに
そしたらあら不思議、体が少しだけ軽くなった。
「あら…」
ソルトが不思議がる。
「動作神経の伝達がスムーズになりました」
ムクラが賞賛してくる。
「流石だねマイカ君、転生者は順応力も高いね」
「あれ、名前」
いつの間に、なんて聞く必要もないか、何度も呼ばれていたし。青年の言葉を無視してウサミに質問をする。
「ウサミさん」
「何だい」
「上に、怪物の元に行くためには、どっちに向かえばいいんですか?」
「えーと」
ウサミはナビゲーションを確認する。
「現在地、つまりハイフォトゥールの入り口から真っ直ぐ北東に進め」
「北東…」
わずかに土の香りがする方に鼻先を向ける。
「こっちに行けばいいんですね」
「そうだよ、そのまま真っ直ぐ走れば保護区の最上ゲート、偽物の地上への出入り口に辿り着く」
「解りました」
それだけ解れば今は十分だ、少しでも余計は不安は取り除いておきたい。
まだ熱っぽさは残っている、しかし体の感覚は大体自分の物と認識できていた。怪物と出会い、その体を齧った時より気分は乗らないし、関節もずくずくと痛む。だが走る分には問題ない、と思う。うん、むしろ全速力で疾走したくて堪らない、ということにしておこう。
「急に激しい運動をすると体に負担がかかります。最初から全力を出さず、まずはゆっくりめに走りましょう」
ソルトが保健の先生みたいな提案をしてきた。
「準備運動って」
この体で何をすれば良いのか。
「そうですね…。抑制板は殆ど剥がれていますから、とりあえず好きに体を伸ばしてみてください」
ソルトはため息交じりに言った。抑制板とはもしかして、機体にびっしりと纏わりついていた鱗のことか。何か大事な物ぽかったのに事のついでで、つい全力でぼろぼろに剥がしてしまった。
しかし後悔してももう遅い、なのでお言葉に甘え思うままに関節を回し肉を伸ばす。
みりみりと音をたてて痺れるような快感が神経を伝う。手足、じゃなくて前足と後ろ足に温かい体液が巡った。手の平に、そこだけが汗をかいていた。この丸くてふにふにのわらび餅みたいな手は、
「それは肉球だよ」
そうだこれは肉球だ。俺の手にあの、丸みのある三角形と小豆のようにぷっくりとした指がついている。肉球はその柔らかさで、重量のある体の衝撃を吸収してくれていた。
改めて観察するついでに軽く握り締めてみる。素晴らしい反発のおかげで握り拳を作ることが出来ない。今の手だったら鉛筆も消しゴムも、スマートフォンも使用できない。
だけどこの手なら、それ以上に素晴らしいことが可能になる。むしろ出来ないことなんて無いのではないか。肉の球を見つめていると、そんな自信が沸々と湧いてきた。
肉球は至福の感触。