後悔を脳に浴び、舌に溶かして
渡る世間は後悔ばかり。
盛大で、尚且つ切実なる否定の声があがった。
「いやいやいや?」
芸人技のようにハーモニーしたのは、ウサミとムクラの二人だった。
「隊長さん?何とんでもないこと言ってんすか?」
ムクラは早口に、賢明に舌を噛まないよう説得を試みる
「認可もされてないのにゲートを潜るなんて、しかも最上層の街のゲートなんて、許可なく接近するだけで厳罰ものなのに!」
「いつかの時代のどっかの壁かよ」
この冗談は誰も反応してくれなかった。
「…処理員君落ち着いて、今はそこまで厳重ってわけじゃないよ」
ウサミが何か含みのある訂正をしようとしたが、それすら気づかないほどムクラは震えあがりまくりだった。
「無職の上にお縄になったら、怪物に食われるより先に人生が終わりますよ、主に俺の」
「黙れ」
ルドルフは酷く落ち着いた感情をあえて演出した。
「貴様の使命はこの兵器に乗った瞬間から、無イを駆逐することにある。そう許諾したのだろう?」
仕事じゃなかったら首を絞めてやる、漏れ出す若者の本音が青年の、いたって常識的で普通な愚痴を問答無用で捻り潰す。
「隊長さん落ち着いてください」
ウサミが溜め息をつく。
「何にせよあなたがいきり立った所で何の解決にもならない、問題なのは」
そこで一旦区切り、
「転生者が再びの操縦に耐えられるのか、ということです。ねえ?ヤエヤマ君」
俺に問いかけ、そして抑揚なく要求してくる。
「も一回、て言うかこれからずっと、この兵器を動かせるか?」
「は、えっと」
突然なんだか規模のでかいことを言われたので、一瞬言葉に詰まる。しかし
「できますよ」
特に否定することも無かったので、簡単に了承することが出来た。
「そうかい」
ウサミは笑った。
「…」
ルドルフは音を潜めて呼吸して、
「癒術士、転生者のバイタルチェックを」
ソルトに指示を出した。
「わかりました。失礼します、マイカさん」
ソルトは名前の部分だけ小声で言った、実態は見えないが皮膚に温かい感覚が沁みる。
「そうですね、若干筋肉組織と脳神経にダメージが見られますが、作戦に支障はないでしょう」
ああヤバい、ソルトの事務的な声を聞いていると、今更ながら恐怖が襲ってきた。自分でさくっと快諾しておいて、しかし後悔も確かにあったことは否めない。
まあ、もう遅いが。
「よし、ならば」
ルドルフは自身の言葉をしっかり、じっくりと噛みしめるように発音した。
「転生者ヤエヤママイカ、貴様に我がバルエイスが保持する多機能式防衛兵器の操縦権利を明け渡す。ヤエヤママイカ」
「はい」
この堅苦しい雰囲気から、この兵器は本来だれかの許可の上で動かすべき道具であることを俺はようやく理解し、もう一つの少し期限切れの苦い後悔も十分味わった。
いつも、どんな時でも、俺はどうしてこう気付くのが遅いのか。いつかの誰かの失跡が脳裏に蘇って、そしてすぐに溶けて消えた。
悔いが無いように、なんて出来っこない。