あなたの言うことを、最後まで聞きたくない
人の話をきちんと聞きましょう。
だけどそう言えば、犠牲者は一人もいないんだっけ。
「今はほんとに便利だよ」
ウサミが意味もなく懐古した。
「昔はまともなセンサーもなかったから、今回みたいに身の安全を、命を確保することも、それすらも難しかったし」
「警告装置が上手く作動してくれて良かったですよ」
ソルトが何処か遠い場所を見るかのように呟く。
「警告装置って、焼肉店にいたときになっていたやつだよな?」
浅い所にある記憶が、無機質なアナウンスを再生する。
「あれはいつも、その、しょっちゅう鳴るものなのか」
「いいえ、そんなことはありませんよ」
ソルトは明るい口調を作って言う。
「あそこまでレベルが高い、危険度が高いのは滅多に発令されません」
「あんなことが毎日起きたら、一年中休校になっちゃうよ」
ムクラが冗談をかましたが、どう反応すればよいものか。
「それでも1とか2とかの低いものは、日常的に発令されます。区民の皆様には日々負担をかけて、心苦しいものです」
ソルトはここにいない誰かの心配をした。
「生活に対して実害がないから、誰も何とも思っていないけどね」
ウサミが笑う。
警報が、災害に近い怪物の襲撃が日常に溶け込んでいる世界、か。
「なんというか」
何かを言わなくてはいけない気がして、
「大変だね」
結局ぺらっぺらの同情心しか浮かばなかった。こんなこと今更彼らに言ったところで、一体なんになるというのか。
「んーでも、今は警報もちゃんと作動するし、きちんと避難すれば大体生き残れるから。君なんかが心配する必要はない」
ウサミは軽く話題を終わらせた。
「もう二度と…」
「そんな事より!」
彼の言葉を待ったが、それより先にルドルフが叫びに近い声を発した。
「ゲートはまだ開かないのか」
ルドルフの声には苛立ちが滲み、それでいてどこか冷たく鋭い香りがあった。
「えーと」
「いつまでまごついている」
隊長の要求にウサミは言葉を濁す。
「それがですね、先ほどから申請の通信を送っているんですけど、いまいち明確な返答が返ってこないというか」
「あ?」
濁った声を出す隊長殿に、ウサミは疲れを堪えて事実を説明した。
「いえですね、仕方がないですよ。あなたも十分分かっているでしょうよ、地下から地上に出るにはいろいろ面倒なことがあるって」
「…まだ手前の街だろう、地上に出ると決めたわけではない」
ルドルフはもごもごと唸る。
「隊長、ハイフォトゥールはバルエイス内でも特別で、そこに訪れるだけで地上に行くことを決意するのと同等なのですよ。学校で、あるいは親御さんに言い聞かされてきたでしょう?」
ウサミは我儘な子供に、正しいことを言い聞かせる、優しい父親みたいに溜め息をつく。
「あるいは貴方自身が」
「仕方がない」
ルドルフは自分に言い訳をして、そして納得をしようと決めた。
「転生者」
「はい」
名前を呼ばれなくても、その呼び名が自分を差すと自覚していることがなんとも可笑しい。
「ハイフォトゥールのゲートを、目の前にある門を飛び越えろ」
どうしても途中で飽きてくる。