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幕間 電子書籍は便利だな

読み読み。

Yさん、重ねて質問しますよ。あなたは避難警告を無視し、無人のはずの都市に一人残されていました。そこであなたは巨大生命体無イに遭遇しました、ですよね?

「ああ、そうだよ」

 でしたら、その時無イと戦闘行為をしていたはずの、巨大兵器の存在も確認できたはずですよね?

「へ?」

 ですから、あなたは妖獣を目撃したのですか?見たのなら詳しい情報を教えていただけないでしょうか、よろしくお願いします。

「い、いいや、そんなこと言われてもなあ…。俺ァ目が覚めてばかりで記憶が曖昧だし、ただでさえその日は飲みすぎで頭痛かったし…。せっかく読んでもらっておいて悪いが、実の所あんまし憶えてないんだよ、何かでっかい音ばかりしていた気はするけどな」

 そうですか。ですがもっとこう、具体的な情報を思い出せませんか?たとえば何か獣の唸り声がしたとか、魔法反応があったとか。

「具体的、ねえ。そんなこと言われもなあ、生憎だが何も聞こえなかったよ。とにかく息が苦しくてな、心臓がこう、氷の手で握りしめられているように冷えて、地面を張って逃げるのに精いっぱいだった。それに俺は勉強が嫌いでな、魔法反応なんか判りもしねえ。そんなことできたなこんな生活送ってねえや、はははは…」

 そうですか、それでは

「あ、ちょっと待ってくれ」

 はい?

「一個、一個だけ憶えていることがあるぞ」

 ほお、してそれは?

「あの時の街には、すんごい臭いが立ち込めていたな」

 どのような臭いですか。

「なんていうのかな、冷蔵庫から出しっぱなしにした刺身みたいな…。とにかく生臭くてな、あれは何の臭いだったのか。頭ががんがんする中で、妙にそのにおいだけは記憶に残っていやがる。気持ち悪くて仕方がねえ。

 そういえば、化けモンが去ってから街を歩いたが、あの匂いは全くしなかったな」

 ああ、それはですね、中央行政機関によって清掃されたからですよ。区民にはできる限りストレスのない快適な生活を、それが我がバルエイスの掲げる理念ですからね。

 …他には?」

「他かあ…、うーん。あ、そうだ、猫」

 猫?

「なんかやたらと頭の中に、猫の鳴き声が残っている、気がするな」

 猫ですか、ペットは皆同じ区民として丁重に保護されているはずですがね。野良猫でもいたのでは?

「そうかもな」

 取材はこれにて終了です。Yさん、本日はお時間いただき誠にありがとうございました。




「操縦士さん、ウサミ、さん。何をご覧になっているんですか?」

 小柄で髪の長い癒術士の少女が、ウサミさんの横に出現しました。つい先ほど眠った転生者の健康管理が終わったのでしょう。

 ウサミさんは彼女の、そしてほかの隊員たちの姿を見て、溜め息を一つしました。今回の作戦でウサミさんが担当することになった兵器はとても難しい物で、実の所もっとベテランの年を取った癒術士が配属されることを期待していたのです。それは他の担当にも同じことでした。

 しかしウサミさんの期待は叶えられませんでした。実際に作戦に赴いたのは皆、ウサミさんにとっては年端もいかない子供ばかりだったのです。何となく、うっすらと予想はしていました。ですがこうも…。ウサミさんは今更可笑しくなってきました、笑っている場合ではないのに。

「ちょっと睡眠前の、情報収集だよ」

 ウサミさんは顔の筋肉を、怪しまれない方向に動かしました。兵器は今休憩中、緊急時に使う避難経路の入り口に期待を落ち着かせて、転生者を含めた隊員の皆はこれから睡眠をとるのです。作戦はまだまだ続くので、しっかり体力を温存しなくてはなりません。魔法の弾を作る係の肥った男の子は、早くも寝息をたて始めていました。若い、本当に若い隊長さんはまだ起きている気配がします。

「電子書籍ですか」

 眠気を感じさせない少女が、親しみを込めて身を近付けます。

「通信機能も良好ですね」

「このままこの作戦も良好に終わってくれればいいけどね」

 ウサミさんは期待を抱きました、きっとこれも叶うことはないでしょう。

幕間、まだ続きます。

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