幕間 女はそれをやめられない
バルエイス最下層高級住宅街、今日も主婦の噂話が飛び交う。
「そういえば奥さん、知っていますかあの話」
「何ですか?」
「何って、あれですよ。オウカメ家のお子さんにまつわる噂、知らないんですか」
「オウカメって、あの死神の?」
「しっ声が大きいですよ奥さん。そうです、名前持ちの中でも最も特異で異常な経緯を抱える、あのオウカメ家です」
「あそこのお家、前の災害でご子息を亡くしたんじゃなかったかしら」
「ええそうです、ご長男がお亡くなりになりました。あの災害は本当に悲しいことでした。とても優秀な息子さんだったそうですよ。ですが私が言いたいこととは別です。私が言っているのは下のお子さんについてです」
「あら、ごきょうだいがいらっしゃったの?」
「ええ、今まで表に出ることはほとんどなかったのに、最近になって頻繁にメディアに顔を出すようになったのです」
「まあ、私全然知らなかったわ。ニュースはゴシップしか見ないもので」
「死神がゴシップを騒がすことなんて、天井が落ちてもあり得ませんわ」
「おほほほ、あらやだ奥さん声が大きいわよ」
「おほほほ、ごめんなさいね」
「様々な憶測が飛び交っていますよ。もしかしたらいよいよ政界に進出するとかしないとか。そのためにお子さんに共同保護区の行政機関直轄の仕事を任されるとか」
「まあ!それって選りすぐりのエリートしかなれないってもっぱらの噂でしょう?ずいぶんとすごいじゃない」
「あらあら違いますよ奥さん。あれですよ、いわゆるコネクションってやつですよ。でなきゃ死神がそんな大役を任されるわけがありません
「あらまあそうなんですの?でも貴女、そんなに悪く言ってはいけないわ。仮にも名前持ちの方々なんですもの」
「そうですね、ごめんなさいね」
「でもいったい何をやらされるんでしょうね?まさか外交官ということはないでしょうけれど」
「そんなことになったら、バルエイスが滅びますよ。噂の噂ですが、知っていますか?妖獣の新機体のこと」
「妖獣?何でしたっけそれ?」
「あらあら奥さん、いくらなんでも情報に疎すぎますよ」
「ごめんなさいね、私政治のことにはあまり・・・」
「ついに無イに対抗できる手段が見いだされたのですよ。速報で流れていたじゃないですか、転生者がバルエイスにも発現したって」
「ああ!あれね。でも私いまだに信じられないわ、ほかの世界から救世主を呼び出すなんて、夢みたいな話。まるで嘘みたい」
「やだ奥さん、滅多なことをいうものではないですよ。研究所の発表に嘘があるわけないじゃないですか」
「そうね、それもそうね」
「それでですね、それらのことにオウカメ家も関与しているんじゃないかっていう噂が、秘密裏に出回っているのですよ」
「まあそうなの?よくわからないけどなんだか怖いわ。私たちの生活に何か影響が出たらどうしましょう?」
「あらあら奥さん、それは万に一つだってありえませんわ。だってここは最下層なんですよ」
「そうでしたわね、いくら死神が暴れようが無イが狂暴だろうが、ここまで来ることはありえませんね。やっぱり多少の無理をしてでもここに引っ越してきてよかったです。旦那には感謝しなくちゃ」
「ああそういえば奥さん、知っていますかあの話。ほら、3丁目に住んでる・・・」
この世界では、住んでいる場所によってヒエラルキーが反映される文化があります。下に住んでいる人が偉いということになっています。