お届け血管
熱々をどうぞ。
さてコーヒーの完成である。俺は他人に誇れるほど知識と愛情を、コーヒーに対して抱いてはいない。なのだが、そんなコーヒーど素人野郎の俺の目で見ても、ソルトの淹れたコーヒーは美味い食べ物だと直感した。
早く飲みたい!そう願ったところでふと、気掛かりなことに気付く。せっかく気合を込めて淹れられたコーヒーなのだが、どうやって給湯室から俺のいる部屋まで届けるのだろうか?
俺はぐるりと室内を見渡す。眠くなりそうな明るさに満ちている室内は、液体一滴も逃さないほど密閉されており、出来立てのコーヒー片手に出入りできそうな、気軽な扉はないように見える。
ソルトは瞬間移動、つまり体を気体にすることで移動を可能にしている。はたしてコーヒーを持参したままでその方法が可能なのか。まさかコーヒーまで分解して再構築するのか?いくらなんでも、そんないかにもな荒業ができるのか?もしできたら俺は地球上で初の、分解済みコーヒーを味わう人間なのかもしれない。
なんだか奇妙にどきどきしてきた、はたしてコーヒーは如何様にして届けられるのだろう。
「珈琲できましたよー、そちらに送りまーす」
ソルトが俺に向けて話した、期待が高まる。
「おっお願いしゃーす」
鼻息の荒い俺とは裏腹に、ソルトは何事もなく穏やかに給湯室内を移動する。そして部屋の壁に埋め込まれている装置に近づいた。その装置はホテルなどにある、食器用エレベータによく似ていた。
装置の取っ手を引っ張り、暗い中にコーヒーの入ったコップを投入する。中に入ったことを確認すると、ソルトは指を唇に当てて少し考える。考えて装置のボタンの一つを、ぽちりと押した。
「………」
30秒ほど間を置いただろうか。待っていると突然、俺のいる部屋の壁の一部がむくむくと膨れ上がった。
「うひえ?」
びっくりして身構ている間にも、膨らみは変化し続ける。最初はうねうねと柔らかく、次第に硬そうな形状に。恐る恐る近づいて観察してみると、膨らみだったものが見覚えのある道具の形になっていた。給湯室の壁にあったものとよく似ている。ご丁寧に取っ手まで再現されていた、思い切ってそれを引っ張ってみた。
液体の反発を感じさせながら、小さな引出しは容易く開けられる。喉の奥のように暗い中から、ふわりと蓋付きの白い紙コップが浮かんできた。つい先ほどまでソルトの手の中にあったものだ。
おっかなびっくりしつつ、漂うコップを手に取る。火傷する寸前の温度が、手の皮膚に伝わってきた。
いいかげんコーヒーの描写が鬱陶しくなってきました。