にょきにょきと伸びるイメージ
にょきにょき。
ともあれ他でもない彼女がそう望むのならば、俺は喜んでコーヒーを所望しよう。彼女の期待には出来るだけ答えたい。もしかしたらそれ以外の飲料を用意できないのかもしれないし。
っていうか、こんな所で飲み物が作れるのか?兵器の中だぞ?
「じゃあ、あの、コーヒーください」
生まれて初めてシャレオツなカッフェーに訪れた客のように、緊張気味で笑顔のソルトに注文をした。
「承りました」
ソルトはうきうきとした声で答えると、ぱっと実像を移動させた。いきなり人の姿が消える仕組みにはいまだ慣れそうにない。少し跳ね上がった動悸を堪えて、俺はソルトの行先を辿る。コーヒーを頼み、それを承ったのだから、当然のことながら早速コーヒーを作りに行ったのだろう。コーヒーを作ると言ったら…、俺はソルトの説明を思い出す。
俺は彼女の体の行方に思いをはせる。確かこの兵器には給湯室があるんだったか。兵器にそんな設備を着ける意味があるのかと言う疑問はとりあえず隅において、瞼の裏に意識を巡らせる。波打つ闇の中に、他人の冷たさのある意識が混ざる。ソルトの意識だ。急いで脳内に。朝顔のツタに似た職種をイメージする。それを作らないと意識が上手く掴めないのだ。
ソルトの穏やかな橙色の意識を捉えると、彼女の思考を通じて見慣れぬ一室が見え始めた。
ここが給湯室か、なるほど確かにあまり広くない、と言うか狭苦しい部屋だ。平均的な体格の人が、二人並んですれ違える程度のスペースしかない。ルドルフのように細身の体格なら余裕があるが、ムクラのような体格の人が集まったら、そこそこ窮屈な思いを強いられそうだ。
しかしながら決して広くない限られたスペースにおいても、その給湯室は俺の知る給湯室としての、最低限の設備は整えられ、イメージ以上の機能を予期させる余裕に満ちていた。
休憩の余裕が含まれている給湯室の空気。およそ兵器には似合わないその空気の中に、ソルトの小さい後姿がった。この短い時間に、体を気体化して移動してきたのだ。
俺は改めて彼女の瞬間移動に感心する。多少不気味ではあるが、確かに便利なものだ。しかしよく考えてみると、移動するたびに彼女の体は機体に近い状態へと分解されるので、真面目に考えると結構怖い。肉とか骨とか皮の個体がなくなるって、どういう感じなんだろう。ソルト本人がぴんぴんとしているから、心配する必要はなさそうだけれど。
「えーと、珈琲豆はどこでしたっけ…?」
ソルトは俺の注文に従って、コーヒーを作るための準備をしようとしていた。実体と重みのある体で、あるものを探している。細くとも適度に脂身のありそうな体が、給湯室の中を探し回る。剥き出しの腕が人工灯に白く照らされていた。
彼女は給湯室にある棚の一つを開ける。
「あ、ありました!」
ツタの先っちょのくるりんは、この世の美しいものの一つだと思っています。