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彼らにしかできないことは

仕事は続く。

「んんん…」

 ソルトが命令に従い報告をしようとして、しかし言葉に迷い口ごもる。実存する視線はないものの、俺を庇おうとしてくれていることが読み取れた。

 いや、それだけじゃない。彼女は怯えていた、その理由も容易く想像できる。

「どうもこうもだよ、まったくよ」

 しかし彼女のいじらしい気遣いは、ウサミによって潰される。

「最高品質の装甲版も、最強レベルの抑制版も、およそ8割方見事に剥離しましたよ」

 彼はどこか他所事のように、飄々と事実を伝える。その声には他人事を覗き見る、野次馬のような愉快さが滲む。

 装甲版とか抑制版とは、一体何のことなのか?気にはなったが質問する空気ではない。一度外部からこの兵器を仰ぎ見たときに、そんな大層そうな板がくっ付いていただろうか。

 もしかして、俺はふと思い当たることに気付く。肉、ではなく怪物に襲いかかろうとした時、皮膚に纏わりついていた鱗。邪魔だと引き剥がしたあの細かい硬い物、あれが装甲版か抑制版のどちらか、あるいは両方だったのか。新たな冷や汗が流れ始める、まさかあれがそんなにも大層な物だったなんて。

「敵を討伐する前に、早くも予想外のことが起きましたね」

「くそ…」

 ウサミとルドルフの成り立っていない会話を聞いて、心臓が締め付けられる。

「あの、ごめ、すみませんでした。勝手に大事な物を取ってしまって」

 正直な所何がそんなに大事なのか、何一つとして理解できていない。だけど声の調子からくる条件反射で、つい中身のない謝罪を例のごとくした。

「動こうとしたら、なんか勝手にとれちゃって…」

 言い訳ぐらいもっと自信を持てばいいのに、つい温情を期待して無駄な補足をしてしまう。ただ嘘だけはついていない。

「何だと…?」

 しかしルドルフの反応は、予想に反して静かな物だった。

「抑制版を個人の意思のみで、それだけの力で破壊しただと…?」

 震える声には恐れに似た驚愕が含まれている。顔が見えたならば、滅多に見れそうにない彼の表情を拝めたことだろう。

「嘘だ…」

 ルドルフは誰に答えを求めるでもなく、一人信じがたい事実に耐える。

「隊長」

 おそらく震えている彼に、ソルトが優しく労わりを以て語りかける。

「言葉が出ないほどの驚き、それは十分にお察しします」

 その言葉は隊長だけに向けられたものではない。

「ですが今は」

 彼女は己の慄然を噛み殺して、機内の全員に聞こえるようアナウンスする。

「目の前の戦いに集中しましょう、それが私たちにしかできない仕事です」

皆にもできることを、普通にできるのが一番ですね。

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