音漏れに滴る感情の色
呻き声。
「しかしこんな所で、そんな意地悪をしたって意味はない」
ウサミはなけなしの親切心を恵み与える。
「転生者ヤエヤママイカ様。貴方は命令を無視し、独断でフェアリービーストの駆動権を奪取しました」
彼は職員室に呼び出された生徒に説明するように、あえて事務的に説明してくる。
「そして類稀なる暴力的な操縦によって、モンステラに攻撃をぶち込みましたとさ」
しかしすぐに飽きて言葉が砕ける。
「そう、そうなんですか」
簡潔で端的な説明に返す言葉もなく、どんな感情を浮かべたら良いのかも分からない。しかし高確率で良くないことをしたようだ。
「おお、おおお?」
不確実な不安を抱えていると、不明瞭な呻き声が聞こえてくる。この声はムクラのものだ。
「なんてこった!今の攻撃は、き、君がやったんだね?」
彼は唾を飛ばしそうな勢いで、それが俺に届くことはないが、息巻いていた。
「一人だけであんなにも激しく、縦横無尽に妖獣を操縦したなんて。信じられない!有り得ないよ!アンビリーバブルだよ!」
興奮のあまり言葉遣いが軽く崩れている。
「転生者様!どうやって動かしたんですか?」
ムクラは改まった態度で質問を投げかけてくる。
どうやって、と言われましても。俺はどう答えたら良い物かわからない。正確に明確に事情を説明することは、出来ないことも無い。しかし自分としては、ただ己の体を思うままに欲望のままに動かしたに過ぎない。その動作力は多少の支障があっても、動作主の予想を遥かに超えるほどの頼もしさがあった。それに一応ちゃんと、脳天から爪の先まで間違いなくきちんと俺の意志が通っていた。あまりそう思いたくないが、認めざるを得ない。
俺が誰に向けるかまだ決めていない言い訳を捏ね繰り回していると、酷く恐ろしく響く唸り声が耳に届いてきた。獣のような音に、心臓は絞めつけられ皮膚に冷たい汗が滲む。
「ヤエヤママイカ……!」
ルドルフが見えない俺に喰らいつかんばかりに、だが努めて静かに起こっていた。
「貴様…!」
「ああああの、えっと、すみませんごめんなさい」
大して長くもない長年の習慣で、薄っぺらい謝罪をしてしまう。こんなことしたってより相手を怒らせるだけだと分かっていても、ついやってしまうのが最早呪いに近い癖だった。
「…」
期待をしていたわけではない、しかし予期した怒りに反してルドルフが沈黙しか与えないので、俺は不安に身を固くすることしかできない。
「操縦士と癒術士、装甲版と抑制版の損傷具合を確認しろ」
結局ルドルフはほんの短く沈黙した後、俺には何も言わなかった。その代わり苛立ちの残る声で、ウサミとソルトに報告を求める。
マイカは怒るより先に謝る性格です。