触覚ショッキング
ソルトと移動するマイカ、彼女の意外な秘密が明かされる。
窓の外を漠然と見ていた。いわゆるクラシックカーによく似た乗り物は、車輪をスムーズに鳴らして心地よく地面を走っていた。先ほど幽閉されていた建物から無事脱出し、外に出てみてまず目に映ったのは銀色に輝く家々の波とどこか違和感を抱かせる青空だった。当たり前のように止まっていた車らしきものの運転席に、当たり前のようにソルトは乗り込み動力を、すなわちエンジンを作動させた。
「君免許持ってるの?」「学校で勉強しました、まかせてください!」というやり取りを短く済ませた後、ソルトの運転する車は街並みへと進んだ。
俺が眠っていた建物は高度の高い場所にあったらしく、下り坂を緩やかに下って行くと銀色の住宅街へたどり着く。
なんというか、きれいな所。それ以外の感想を抱けない街並みだった。瞬間的にすれ違う人らしき生き物も、体全体から余裕感を醸し出している。俺は少し気が滅入り、空を、正しくは空色に着色された広大な天井を眺めた。
「運が良かったですね、ちょうど日照時間に外に出られるなんて。最近は動力不足水不足だとかで、晴れの日も雨の日も全然来なかったんですよ。夜ばっかりで気が滅入るって、ファーザーも言ってましたよ。私は夜大好きなんですけどね」
「ふぁーざー?」
「ああ、えっと、子人の男の人です。転生者様も会っているはずですよ。ほら、前歯の大きい」
「ネニン?もしかしてあいつかな」俺は出っ歯のネズミに似た男を思い出す。目が覚めてからあった人物など限られてくる。
「でもやっぱり明るい方が楽しいですね。私はあまり光にあたることはできませんが、どうでしょう、日光浴でもしてみませんか?」
ソルトは最高の提案をするかのように笑顔を向けてくる。
「いや、いいよ」一応丁重に断って置いた後、訪れた沈黙を取り繕うつもりで、俺は気になっていたことをこの際だからぶつけてみた。
「なあソルトさん」
「ソルトでいいですよ」
「えっ」初対面の女性をいきなり呼び捨てかあ・・・。気が引けるけれど勇気を出そう、何せもう裸を見てしまったのだから、今更恥ずかしいことなどない。
「ソ、ソルト」
「はい」
「この世界、いやこの国に住んでいる人は、その、みんなあんな感じなのか?」
「あんな感じ、とは?」
「いやだから、耳がでかいとか尻尾が生えているとか鱗が生えているとか、そういうこと」
「ええ、そうですよ。当たり前じゃないですか」
「・・・そうなんだ」
ソルトの表情にふざけだ感じはない。だとすればここでは体に特徴があるのが当たり前なのだ。だとすると新たな疑問ができてくる。
「君にも何か、身体的な特徴があるのかな?」
一見したところソルトには大きな耳も尻尾も鱗も生えていない。もしもそれらすべてが該当していたら、この世界の住人には申し訳ないが発狂していた。それに期待もあった、もしかしたら俺以外にも人間らしい生物がいるかもしれないという期待が。
しかしそんな淡い期待はソルトの「ありますよ」に打ち砕かれる。彼女は数秒顔をこわばらせる。すると頭部から角が生えてきた。
「のわあ?!」
ソルトの角はうねうねとうごめいている。どうやらおれはこの世界で希望を抱くことを許されないらしい。
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